第17話 2人でビデオを観て

「ここが私の家だよ」


 20分ほど歩いて瑞波の家にやってきた。中学校の時は同じ校区だったのでだいたい土地は分かる。瑞波の家の近くに中学の同級生の家あるし。


「へえ。ここが瑞波の家……」


 遂についてしまった。やっぱりご両親いるんだろうなぁ。瑞波と居るときとは別の意味でドキドキしてきたよ。


「はいどうぞ」


「お邪魔します」


 こうして初めて女の子の家に上がらせてもらった。しっかり靴を並べて変なことはしないように。


「大樹くんそんなに緊張しなくても。もっとリラックスしていいよ」


 瑞波は優しくそう言ってくれるけどなかなかそうもいかない。何回も言うが俺は初めて女の子の家に来たんだ。


「だって今日はお母さんもお父さんも居ないから。だから何にも気にしなくて大丈夫」


「はい?」


「え? 言ってなかったっけ? 今日は平日だからお父さんもお仕事だし、お母さんは近所の人との集まりがあるって」


 いやいや。そんなこと一切聞いてない! 今初めて聞いたよ! 


 まてまて。なら今ここにいるのは俺と瑞波の2人きり? それって法的に大丈夫なのか? (何の問題もありません)


 さっきよりドキドキ感が上がっているんだけど。初めて女の子の家に上がって2人きりとかハードル高過ぎないか? スポーツだって初心者には基礎からゆっくり教えていくのに、恋愛初心者にいきなり全国大会レベルのことされたらパニック起こすぞ。


 俺がそんな風に焦ったりドキドキしているなか瑞波は平然と手を洗ってリビングに通してくれた。


「ソファーに座ってて。ジュース準備するから」


「あ、ありがとう」


 お礼を言うものちょっと不自然になってしまう。これが2人きり効果なのか……? 


「はいこれ。オレンジジュースでよかった? えへへ。大樹くんと2人っきりだぁ」


 ジュースの入ったコップをテーブルに置いた瑞波が甘えるような声を出して俺の隣に座った。ふんわりと甘い香りが漂ってくる。


「こうして大樹くんとお家デートするのも私の夢だったの。このままゆっくりしてもいいんだけど、それじゃあいまいちだし今年の新人戦のビデオ観よ」


 俺はこのまま何もしなくても良かった。ただ横に瑞波がいてくれるなら。この温もりと俺に見せてくれる可愛い笑顔があればそれだけで幸せだ。


 でも好きな人とこうしてビデオを観るのも最高のシチュエーションだ。観るものが俺が出てる試合なのがちょっと恥ずかしいけど。


「ナイス大樹くん! ほんとこのプレーはかっこよかったよ!」


 瑞波が言っているのは俺がセンターに抜けようかという打球を横っ飛びでキャッチしたところ。こうして瑞波に褒められると照れ臭い。


「私ね。大樹くんが良いプレイしたら本当はベンチ飛びだしてそのまま抱き着きたかったの。もちろんそんなことはできないけど今なら良いよね?」


 そう言って「んっ」と俺の方に腕を広げる瑞波。これは良いんだよな?


 ゆっくりと瑞波の腕に入っていく。俺が抱きしめる前に瑞波が俺のことがぎゅーっとしてくれた。右手を背中に回して左手で俺の頭を優しくなでる。なんだか小さい子供みたいだ。


「大樹くん良いプレイだよ。私は知ってるよ。大樹くんがこの一瞬のためにどれだけ努力して来たかを。よく頑張りました」


「瑞波……」


 嬉しかった。瑞波が俺のプレイを見てくれてこうして褒めてくれるのが。昔頑張ったことを肯定して貰えた感じもした。


 そして顔を上げたらもうすぐそこに綺麗な瑞波の瞳があって……目が合ったと思ったらすぐに目を逸らられてしまった。


「つ、続き見よっか……。まだまだ試合はあるからね」


「う、うん。そうしよう」


 お互いに照れてしまってその後は黙ったままだった。






 たくさんの感想をありがとうございました!

 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る