第15話 部活納め

 5キロ走の後は体幹トレーニングをしたりベースランニングをしたりしていつもより1時間早く終わった。とはいってもそのあとに部室の掃除があったから本当に部活が終わったのはいつもと同じ時間だったのだが。


「みんな今年一年お疲れさん。今年の部活はこれで終わりだ。各々しっかり身体を休ませるように。でも筋トレとかさぼると年明けてから大変だぞ」


 そう。先生も言ってるように今日で俺たちの部活はお休み。だいたい10日くらい部活がない日々が続く。


「それじゃあ今日は終わり。みんなよいお年を」


 それだけ言うと先生は職員室に戻って行った。


「よーしじゃあこれからソフトボール部恒例の忘年会に行くか!」


 キャプテンの一言で一気に盛り上がるみんな。忘年会と言ってもただフードコートで喋るだけなんだけど。それも何かとイベントごとに行ってるし。


 ぞろぞろと部室を出ていく先輩たち。それに習うように一年のみんなも出ていく。俺もいかないと。


「そういえば」


 瑞波は行くのだろうか。こういう時はあんまり来なかったけどちょっと来て欲しい気分だ。


「みず……和泉は行くのか?」


 部室に飾られている写真を眺める瑞波に聞いてみる。ただ危ないことにまだ同級生がいる中で瑞波と呼んでしまいそうになった。


 そういえば瑞波の方は最初から「大樹くん」呼びだな。他のみんなは苗字呼びなのに。みんなそれで慣れてるけど今思うとちょっと不思議だ。


「私は遠慮しておこうかな。ごめんね、午後から用事があるの。それじゃあみんなもよいお年を!」


 そう言い残して瑞波は部室を出ていった。せっかくだから一緒に行きたかったな。でもこれは仕方ない。


「あーあ。大樹ったら和泉にふーられた」


 ドキッとした。それは俺たちの関係を知っていて言ってる? 心配になったけどそれは杞憂だったようだ。ただの冗談だと分かったから。


「そんなこと言ってないで俺たちも行こうぜ。先輩たちもう行ってるから」


 俺たちも部室を出て自転車に乗り込む。そして自転車を走らせること15分。近くのショッピングモールのフードコートに到着した。


「それじゃあ一年間お疲れい!」


「カンパーイ!」


 なんだかんだで楽しい忘年会でした。ただ、瑞波が居なかったのがちょっと寂しかったかもしれない。



「じゃあな大樹。明日の夜はゲームするから空けとけよ。今日は家族でレストラン行くから無理だけど」


 修と明日の予定を確認してから俺たちは家路につく。帰る方向が真逆なのでここからは一人で自転車に乗って帰ることになる。


「っと着信だ」


 スマホがブーブーとポケットのなかで鳴っている。俺は自転車を止めて画面を見た。それを見てびっくりなんと瑞波からの着信だった。


 ドキドキする。こうして瑞波と通話するなんて初めてだ。緊張しながら通話ボタンをタップした。


「もしもし?」


「あっ大樹くん? 急にごめんね。今大丈夫かな?」


「うん。大丈夫だよ。なんかあった?」


「ちょっと大樹くんの声聞きたくて。えへへ。こうしてお話するの初めてだね」


 マイク越しに伝わってくる瑞波の嬉しそうな声。そしてそんなこと言われるとほんとにやばい。


「大樹くんの声聞きたかったのもあるんだけど、本題を話すね」


 あ、本題があるんだ。なんなんだろう。気になるな。


「明日さ、私の家来ない?」


「えっ……?」


 まさかの俺の思っていたことの斜め上を行く瑞波だった。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る