第12話 一章エピローグ これからの俺たち

「はい……私を大樹くんの彼女にして下さい」


 和泉はそう言ってくれた。和泉は笑ってる。なのに目には大粒の涙が。そしてそのまま俺の方に抱き着いて来た。


「もう……絶対に離さないで……」


 俺の胸に和泉がいる。スポーツをしていたから身体はしっかりしてると思ったのにそんなことは全然なく抱きしめたら壊れてしまいそうなくらいに華奢だった。


 それでも俺は抱きしめる。しっかりとでも優しく。もう絶対離さないって誓うように。


 それからどれくらい経っただろうか。俺たちはどちらからでもなく体を離した。 


「えへへ。嬉しい」


 そうはにかむ俺の彼女はやっぱり可愛い。世界一だ。


 ただこれだけじゃない。昨日のことをちゃんと言っておかないといけない。


「和泉……昨日は」


「ちょっと待って」


 俺が言おうとしたところを和泉が遮る。すごい何か言いたい顔してる。まさか怒ってるとか?


「呼び方」


「え?」


 どういう事だ? 目の前にいる可愛い女の子の名前は和泉。間違ったことは言ってない。はず……


「だから呼び方だよ! 私、大樹くんの彼女……になったんだよ? だからさ呼び方も変えたいなって」


 彼女という単語に照れてしまったらしい。でもそっか。呼び方か。和泉って言うのはちょっと他人感があるかも知れない。


「じゃあ……みず……」


 これ以上声が出なかった。なにこれめっちゃ恥ずかしくて緊張するんだけど! 女の子を下の名前で呼んだことなんてない。簡単に出来ると思っていたのになかなかに覚悟がいるようだ。


「まだかな大樹くん。待ってるよ~」


 和泉も待ってる。俺は覚悟を決めて言った。

 

「瑞波……」


 届いただろうか。一瞬そんな不安に襲われたがそれは杞憂だったようだ。


「はいっ! なぁに? 大樹くんっ」


 目の前には最高の笑顔を俺の方に向けてくれる和泉。じゃない瑞波。そのまま笑顔に引き込まれそうになるのをグッとこらえて瑞波に俺は昨日のこと、部活内のことを言った。




「なるほどなるほど。そんな理由があったんだね。私知らなかったよ」


 瑞波は俺の話を黙って聞いてくれた。あのルールがあると知ったときを瑞波の顔はかなり面白かった。これはこれで初めて見る顔だ。


「ってことはさ……私たちって公にあんまりイチャイチャ出来ないってこと?」


「うん……ごめんな。みんなも何も言ってこないとは思うんだけど。瑞波の意見も尊重したいから思うことがあれば言って欲しい」


 瑞波が言ったことは単なる俺の都合だ。瑞波の意見、考えもしっかり聞かないといけない。だって俺たちは付き合ってるんだから。


「みんなに黙ってバレないようにするのね。うーん」


 俯いて考える瑞波。やっぱりそうだろう。本当は俺だって瑞波とイチャイチャしたい。部活の時だってしたいし、手を繋いでかえりたい。


 そこから考えること30秒くらいだろうか。瑞波が顔を上げた。


「隠れてイチャイチャするのってとっても良いと思う! なんかこう2人だけの秘密みたいで!」


「そうなの!?」


 これには驚いた。瑞波はそういう女の子なんだ。


「だって禁断の恋って感じもするし。私と大樹くんは至って普通の高校生カップルだけどね」


「瑞波って禁断の恋とか好きなの?」


 女の子にはそういう類の恋愛が好きな人もいると聞く。瑞波もそういうのに憧れてるんだろうか。


「ううん。私がしたかったのは大樹くんとの恋。それだけなの。他の誰かと禁断の恋がしたいんじゃなくて大樹くんとこうしたかったの」


 そう言ってまた瑞波がぎゅーっとしてくる。今日はなんなんだ。幸せで死んでしまうのか? そう思えるほど俺は幸せだった。









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