第11話 想いを込めて

 歩くこと10分。目的地に着いた。日が暮れて夜になった冬は寒い。手袋をしていない俺たちは頻繁に手を口元に持って行って恒例のはぁーっとするやつをやっている。


「ここってフラワーパークの?」


「そうそう。ここのイルミネーションすごい綺麗だろ? 和泉と一緒に見たかったんだ」


 県内でも有数のクリスマススポット。たまたま和泉がここの近くのイタリアンを連れて行ってくれたから来ることが出来た。


 この期間は無料開放という運営の神対応もあってか人もそれなりに多い。ライトアップされたノースポールやシクラメンを愛でる人もいればイルミネーションを眺める人もいる。


「え……それって……」


「じゃあこっち行こうか」


 ここはあえて和泉の話を遮らせてもらった。今、聞かれても返す言葉がないから。素直に好きな人とこの綺麗な景色を見たかったというにはまだ俺の言葉が足りてないから。


 和泉はすぐについて来てくれた。ただやばい。すごい緊張する。


 この先にいいポイントがあるので俺はそこで告白するつもりだ。


 でもそこまでの距離があまりに長い。いや、距離は100メートルくらいなんだが今の俺にはその距離すら長いと思ってしまう。


 緊張して心臓がバクバクする。冬だというのに汗が止まらない。足もあまり動かない。もし、振られたらどうしよう。そんな考えがここにきてよぎってしまった。


 それはとても怖い。そして思った。俺は和泉をこんな気持ちにさせてしまったのか、と。


 和泉は一生懸命俺に告白してくれて。それを俺は……。


 でも今そんなことを考えちゃだめだ。自分の気持ちを最大限伝えることだけを考えないと。


 いろいろ考えているうちについに着いた。そこはイルミネーションのトンネルの丁度真ん中。そこで俺は脚を止めた。  


 今のタイミング、他の人たちは居ない。まさに俺が自分の気持ちを伝えるのにぴったりな場所。


 そして和泉の方へ向き直る。和泉も俺の方を向いてくれた。軽く息を吸い込む。


「俺は和泉瑞波さんのことが好きです。俺と……付き合ってください……」


 その言葉は俺が思っていたよりすんなりと口から出た。俺の初めての告白。こんな短い言葉を発するのにどれだけの勇気と相手のことを好きだという気持ちが必要だっただろうか。


 もっと笑った顔を見たい。他のいろんな表情を見たい。もっと和泉の近くにいたい。もっとたくさんの話がしたい。もっとたくさんのことを共有したい。


 俺は和泉瑞波が好きだ。この気持ちは誰にだって負けない。


 俺は和泉の方を見た。





〈side瑞波〉


「俺は和泉瑞波さんのことが好きです。俺と付き合ってください」


 私は今、目の前で起きていることが理解できなかった。これは夢? 私が大樹くんを好き過ぎるあまり神様が見せてくれた幻なの?


 でも、今なお冬の寒い風が私の頬に当たってるのを感じる。これは……夢じゃない。


 そう思った瞬間私の胸がこれ以上ないというほどにドクンと跳ねあがった。


 私は大樹くんのことが大好き。この気持ちは絶対誰にも負けてない。


 目の前にいる大樹くんが私に好きだと言ってくれた。それがどれだけ嬉しいことだったか。掴めないと思っていた大樹くんの手を掴めるんだ。


 私は一歩大樹くんとの距離を詰める。


 そして精一杯の気持ちを込めて言った。


「はい……私を大樹くんの彼女にして下さい」





 

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