第2話 帰り道

「あ~寒い。やっぱりこの時期は寒いわ。監督も今日で学校最後だったんだし部活は休みでも良かったとおもうんだけどな」


 12月も下旬になってこの夕暮れは寒い。手袋にネックウォーマーをしてもその防寒着を冷気が突破してくる。


 ただ、今日はいつもより寒く感じる。それは気温が低いというよりも心が冷たいからだ。だって自分の好きな人に告白されてそれを断ってしまったんだから。


「でもあそこで手を取ったら絶対あいつらに袋叩きになるんだよな。理由もばかみたいな理由だから和泉には言えないし」


 俺が和泉の手を取れなかった理由。それは「彼女が出来たらこの部活退部な」というわけも分からないルール。もはやルールなのかも分からないけど俺たちのソフトボール部にはそんな人権も何もないルールがある。


 もちろん公式な部のルールではないし、誰かと付き合ったからって強制退部になることはないだろう。ただ彼女を作るなという脅しのようなやつなのだ。


 なんでこんなことになったのかというとこれには深い理由があるんだ。


 俺たちの通う高校である県立広明高校。スポーツが強くてサッカー部、野球部、ハンドボール部などいろいろな部が多数の全国大会進出を果たしている。


 それは問題ではないんだ。ただ……その部活の奴らリア充のバカップルが多いのだ!!!!!!


 部活の時間はしっかりやってるくせにそのあとは人目も憚らずイチャイチャイチャイチャ。それにブチ切れした先輩によってこの暗黙のルールができた。


 言うならモテなかった僻みなのだが。


 なら、同じ体育会系の部活であるソフトボール部だってモテるんじゃないかと思うだろう。みんな顔だって悪くないし、性格もあのルールさえなければ悪くない。


 ただ……なぜかモテないんだ……。他の部のやつらには野球の下位互換とか言われる始末。そんなことは全くないのに。部カースト最下位に位置する我らがソフトボール部。


 その結果、誰もが彼女が欲しい。でも先を越されてなるものと牽制をしているのが今の状況だ。誰も彼女が出来たことがないのでこのルールによって退部した人はいない。


 じゃあ和泉の告白を受けても問題はない。羨ましがられてちょっと俺の時だけインコースの身体ギリギリに投げられるくらいだろう。


 だが、和泉は俺たちソフトボール部の大事なマネージャー。絶対不可侵の人物なのだ。みんな和泉の笑顔を見て癒されている。もちろん俺だってそうだ。


 みんなのアイドル和泉瑞波。だからこそ俺は手を取れなかった。でも、本心は


「和泉と付き合いたいよぉ!!!!」


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