第2話

 そもそも、このおもちゃ屋の稼ぎはガンプラとガチャ、子供の簡単なおもちゃだったりするのだが、沢山仕入れられるほど売れてもいない。

 父親は年金収入と合わせて暮らしていた為、そこまでシビアな目ではなかったようなのだ。けれど比呂に代わり、毎月稼がないと暮らせないのでかなり躍起になっている。

 比呂がふああっと大あくびをした時だ。店にひとりの女性客が訪れた。

 ショルダーバッグをかけて、ジーパンにチェスターコートを着てカジュアルな恰好だ。目がくりんとして、比呂の好みの可愛いらしい女性。比呂は三十歳だが、女性は二十代くらいに見える。

(可愛いなあ。若いうちに結婚して、子供のおもちゃ探してるのかなあ)

 思わず視線で追うと、女性はガンプラの置いてある棚の一番隅にまっすぐ向かう。埃っぽいそこに躊躇なく足を進めるので、すでに何度も来ているのだろう。真剣な眼差しで箱を取っては引っ込め、取っては引っ込めを繰り返した。

(うそだろ……。弟のプレゼントかなあ)

 にわかガノタの比呂にとっては、よどみなく動く彼女の行動が信じられない。

 店の一番角の適当に箱が置かれたところは、店主になって一年経つが魔窟と呼んでいる。

 明らかに古いプラモから、新しそうなプラモまで適当に置いてあるのだ。父親も分からなくて適当に置いたのだろう。乱雑に置かれていて、売るのが申し訳ないほどなのだ。

 女性の着ていたコートに埃がかかっているような気がして、さすがに比呂も申し訳ない思いになっていく。ちゃんと綺麗に整理整頓していたら、と裏に引っ込みふきんを持って女性の前に立った。

「あの、良かったら埃払ってください」

「え?」

「コートが汚れてますよ。埃で」

「ああ、そんなことですか。私がいけないんですよ、我慢しないで、アルバイトの休憩中に寄るから」

 しれっと断られて、しゅんと落ち込む比呂。けれど女性を間近で見てまつ毛が長いことや色白で華奢な身体を確認してしまい、慌てて離れる。

 女性は気にすることなく、箱を見ては仕舞いを繰り返して頭を悩ませているようだった。

 この魔窟のことを訊かれても、比呂には何一つ答えられない。しかし、ほったらかしては店主として、男としてどうかと思うのだ。

「何かお探しですか?」

「うーん。アッシマーを探しているですけど」

「アッシマー。はあ。アッシマー。アマゾンなら確実に手に入るんじゃないかな」

 思わず口を滑らせてはっとするものの、元々サラリーマンな為にその利便性の良さは良く分かっている。

「そういうこと言っていいんですか? 売れなくなって困るのお兄さんですよね? 前の店長、アマゾン嫌いだったって嘆いてましたよ?」

 女性から訝しげに見られて、苦笑いをする。

 今まで不自由なく生活していて、おもちゃ屋の息子でありながらアマゾンのヘビーユーザーだ。なにより、こんな風に手間暇かけて探すのが面倒くさい。

 女性がうーんと唸っていると、箱を手にとり嬉しそうな顔を見せた。

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