にわかガノタは、おもちゃ屋で恋をする。
@Ikkakisaragi
第1話
昭和に立てられて二階建ての作りのモルタルの家の一階には、プラモデルの箱やフィギュア、子供用のおもちゃ、カードゲームなどが店の中に雑多に置かれていた。それらを整理整頓する気のない店主、青空比呂(あおぞらひろ)はのんびりレジの横に腰掛けて、新作ガチャは何がいいかと冷めた眼差しでカタログを見つめていた。
大卒後、勤続八年、上司の受けも上々で責任ある仕事もしていたのだが、父親が急に病気を理由に比呂におもちゃ屋の店主を押し付けてきたのだ。ボーナス、有給、福利厚生、しっかり整った会社になんとしても入ったのは家業を継ぎたくなかったからなのに、弱った父親を前にしたら、断ることが出来なかった。
それに、どうせ店でレジ打ち程度しかやらないなら、株なんかを合間にやるかと考えていたのだ。
しかし――考えは甘かった。
時間は確かにサラリーマンに比べれば融通が利く。父親も比呂が子供のころは店番をしながら遊んでくれたし、学校行事にも積極的に出ていた。一階が店で二階が家なので、父親が不在である、ということを経験したことがない。ただ、それが暇という意味ではないのだ。
カタログを見つめながら、比呂はじろっとガチャを見つめた。
最近、中学生か高校生らしき集団が、お金も入れずに蹴り飛ばすのだ。もちろん、そんなことで出てくるわけもないが、凹んだり、足跡が付いたり、酷いものだった。
見張りをしつつ、幼児向けの内容に変えようと考えている。
それだけじゃない。この混沌とした店を片付けられないのにはもう一つ理由があった。
カタログを引っ張り出して、新作のガンプラをチェックする。
見た瞬間に頭がくらっとした。『にわかガノタ』の比呂にとって、ガンプラを注文することは至難の業。同じくらい大変なのは田宮模型。
今は確かガンダムナラティブが映画で放映したんじゃなかったかと思いつつ、最新のガンダムはガンダムビルドダイバーズのプラモデル。
比呂は顔を引き攣らせつつ、『最新』と書いてあるものだけ注文すればいいと言いきかせた。
しかし、眼前に広がるプラモデルの山。いや、檻。
これ以上無尽蔵に増やしたら、完全にアウトだ。だったら、古いプラモデルを処分すればいいのかと頭を掻きむしる。
(そもそも、古いってどれだよ。それが分かれば苦労しねえよ)
にわかガノタの比呂でも、古いからこそ価値があるプラモデル、という存在なら知っている。価値というのは、もはやひとくくりに出来ないものがある。そのせいで、古いから店から撤去した、なんてことが出来なくなっている。
(ガンプラ作ったことないけど)
そして、次に悩ましい事情が降って湧く。田宮模型だ。
もはや比呂にはさっぱりわからない。何が売れ筋なのか、新作だけ選んでいけばいいのか。
(この手の事が得意な奴、クラスにいたなあ)
飽きてきて、カタログをペラペラ捲りだす。
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