第2話


先輩は、軽やかな足取りで私の先を歩いていました。

しばらくは何も話していなかったのですが、沈黙に耐え難くなったのでしょうか、口を開きました


「君の名前はなあに?」

部活も何もやってこなかった人間なので、話せない話題が来たらお辛いので、話せる話題で助かりました。

「鼓っていいます。先輩は何ていう名前なんですか?」

「私は団扇っていうんだ、よろしくね」

「よろしくお願いします!」

・・・

話が終わってしまって、再び気不味い空気が流れます。

先程、話振ってもらえたのだから私も何か話を降らなければなりますまい、と思い今度は私が口を開きます。

「団扇先輩は何でこっち側のホームに居たんですか?乗り違えたみたいに余裕ない様には見えなかったですよ?」

団扇先輩は少し言葉を詰まらせ、口を開きました。

「んーとねー、

まず二年生は今日学校ないんだけど、我らが吹奏楽部は歓迎演奏するんですよね

それで…なんだろ、吹くのは入学式の後の…歓迎会?でだから集合はもっと今より一時間ぐらいあとだから暇つぶしにうろついてたん

君に声かけたのも暇つぶしの一環さぁ。」


「へぇ…」

私は声を掛けた理由よりも、吹奏楽部の歓迎演奏という所に意識を傾けられました。

というのも、私は昔ピアノをやっていて、

クラシックとか好きなのです。

「歓迎演奏って何するんですか?」


「んー、聞いてからのお楽しみかな。

興味あるの?」


「まぁ・・・少しは・・・」


「そっかそっか、じゃあ入部しようか?」

団扇先輩は屈託のない素敵な笑顔で私の方を捉えて離しません。

「えっ・・・いや・・・私音楽はピアノやったぐらいしかないので・・・」

ささやかな抵抗を試みます。

「そっか、じゃあ入部しようか?」

「えっ」

部活も何もやって来なかった人間なのに、部活の話で盛り上がるとはなんとも皮肉ですが、弾まない会話という名の窮地は脱したみたいで嬉しさを感じずには居られません。

でも入部はしたくないです


「まぁ考えておいてくれると嬉しいな」

いつの間にか横に並んでいた彼女は、そう言ってまた私の前を歩いていきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

灰色ならざる日々 @aminotori-chang

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る