第十二話 風音の体質。家系。そして、今度は抹茶を。
「そうだ! 電話で、ドS魔王って聞こえたの、あなたたちだったんだね!」
「そうだよ! ツバキ、あのアニメ、すき。ツバキね、ツバキってなまえなの! ツバキって、よんでね!」
「ユズもね、あのアニメ、すき。ユズはね、ユズなの。ユズって、よんでね!」
元気よく自己紹介をしたツバキとユズに、「わたしは姫乃だよ。姫乃でも、姫乃ちゃんでもいいよー」と伝える姫乃。
「ツバキ、ひめのちゃん、すきー!」
「ユズも、ひめのちゃん、すきー!」
キャッキャとはしゃいで飛び跳ねる二人。そのあと走り出し、天井にまで行ってしまった。
「うわぉ! すごーい!」
パチパチと手を叩く姫乃。そんな彼女を見て、嬉しそうに笑うツバキとユズ。
「椿柄の着物の子がツバキで、猫柄の着物の子がユズだねー。覚えたよー。可愛いなぁ。二人は写真に写るの?」
「うつらない」
「うつらない」
「そうなんだー。残念だなぁ。こんなに可愛いのに」
「ほめられたー!」
「ほめられたー!」
喜ぶ二人を幸せそうな眼差しで見つめる姫乃。
「そうだ! ひめのちゃん、あやかしやまにいきたいんでしょ?」
ツバキがニコニコしながら訊ねると、姫乃がニコリと微笑んだ。
「うん、そうだよ。今、わたしの肩に乗ってるハリネズミを見るのも夢だったけど、あやかし山にも行きたいんだ!」
「あのね、ツバキとユズはね、あやかしやま、いったことないの。でも、かざねちゃんはね、たまにあそびにいってるんだよ!」
ツバキがバラした。最悪だ。
「――かざっち、本当!?」
「遊びには行ってない。マツリ様って呼ばれてる子に、一緒にお茶しようって誘われたら行くとか、まあ、そんな感じで……」
マツリ様がくる時もあるけど。
「それって……遊ぶのとは違うの?」
「マツリ様は、子どもの姿だけど、長く生きてて、あたしに人間の友だちがいないから、気を使ってくれてるというか……遊ぶのとは違う気がする。おばあちゃんと仲がいいから、あたしのことを気にかけてくれてるだけだし」
「そうなんだぁ。子どもの姿のあやかしなんだね」
「うん。白いうさぎのあやかしと一緒にいることが多いけど、はしゃいで触ると蹴られるかもしれないよ」
「えー? 怖いね」
「動物の姿のあやかしだからね」
「そっかぁ。人間の姿のあやかしは優しいの?」
「いや、人間の姿だから優しいってことはないと思うよ。人間だって、みんなに優しい人なんていないと思うし」
「あっ、うん、そうだね。優しそうなのに目が笑ってない人とかいるもんね。社交辞令ばかりで、本音を言わない人とか。親が金持ちって知ると、
ニコッと笑う姫乃。
「あっ、そう」
「塩対応。でも、そんなかざっちも素敵」
「Mなのかな」
「ひどーい。って、遊んでる場合じゃなかった。かざっち、明るい服、あんまり持ってないみたいだけど、山に行って、ハチに刺されたりしなかったの?」
「うん、虫に刺されない体質だから」
「わたしと同じっ!?」
「うん、虫にも動物にもあやかしにも、攻撃されないし、血も吸われないんだ」
「動物やあやかしにも? わたしもよく考えたら、動物に攻撃されたことはないような……」
「うちの家系はそういう体質の人が多いみたい。他は知らないけど。あやかしが寄ってくることはあっても、身体を傷つけられたことはないんだ」
「ふーん」
「ツバキたちと仲よくなったんだし、おばあちゃん家で遊んでくれば? かるたでもして」
「えー? かざっちは?」
「時間がもったいないから、宿題を進めようと思って」
「いやいや、一緒にするって言ったじゃん」
「それはそうだけど、時間がもったいないなと思って」
「今は何やってるの?」
「一応読書感想文は終わった。好きなのからしようと思って、現代文、古文、漢文からやってるよ。簡単そうなやつから。英語とか数学は苦手だから、最後にやろうと思ってる」
「読書感想文、終わったの? すごい! 読みたい!」
「ダメ」
「むむむ。わたしは英語が好きだから、英語からやる。それで、かざっちが悩んだ時に教えることにするね」
「ありがとう」
「おおっ! かざっちがデレた!」
あたしがお礼を言っただけで、大喜びの姫乃。
「デレた!」
「デレた!」
パチパチパチと、ツバキとユズが小さい拍手をした。笑顔で。
なんだろ、これ。バカにされてる気がする。だけど、三人がとても楽しそうなので、あたしは怒ることができなかった。
「のどかわいた」
「のどかわいた」
ツバキとユズが顔を見合わせて、ニコリと笑ってから、あたしを見る。
「かざねちゃん、まっちゃ」
「かざねちゃん、まっちゃ」
「……抹茶が飲みたいんだね。水ようかんは食べたの?」
「たべた! おいしかった!」
「たべた! おいしかった!」
「そう」
「――あっ、まだお菓子あるよ!」
そう言って、ビニール袋を持ち上げる姫乃。
「わーい! ちよちゃんち、いこー」
駆け出すツバキ。
「あっ、まってぇ。ユズも、ちよちゃんち、いくー」
ツバキを追いかけるユズ。
二人は、閉まったままのドアを通り抜けた。
それを見ていた姫乃が、「すごーい」と言い、パチパチと手を叩く。
あたしはさっさとエアコンを消して、部屋の電気のスイッチに近づいた。
「姫乃、行くよ」
「うん! 行く行く! わたしも抹茶好きなんだー。ねー?」
姫乃が、肩に乗せたハリネズミに話しかける。その時、あたしはふと気づいた。
「ハリネズミ、肩に乗せてても痛くないんだね」
「うん、全然痛くないよ。愛の力なのかも」
姫乃がそう言うと、ハリネズミが動き出した。ちょこちょこと腕を歩いて、下に向かい、姫乃の手の甲で止まった。
「おおっ! 手乗りですか!」
感動する姫乃は、持っていたビニール袋をフローリングに置いたあと、ハリネズミがいない方の手で、ハリネズミのやわらかそうなところをもふもふした。
「もふもふするのはいいけど、ツバキとユズが待ってるよ」
「あっ! うん! 行く行く!」
急いでお菓子入りのビニール袋を持った姫乃がドアに向かって、ドアを開けて部屋から出たので、あたしは電気を消して、それに続いた。
二人と一匹でおばあちゃんの家に行くと、台所に、おばあちゃんとツバキとユズと、それから猫のきなこがいた。
おばあちゃんがお湯を沸かしてくれていたけど、ツバキとユズがあたしの抹茶が飲みたいと言ったらしくて、あたしが五人分の抹茶を点てることになった。
おばあちゃんのと、ツバキのと、ユズのと、姫乃のと、自分のだ。
がんばった結果、手首が痛くなったけど、抹茶の味で癒された。姫乃が持ってきたお菓子も美味しかった。
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