31話

「す、すみません……人がどっと押し寄せてきて……」

「本当ですよ……気をつけてください……」

 救助したせいで、いきなり疲れる俺であった。

「だ、大丈夫ですか……?」

「何とか……」

 早く帰りたい。

 帰って寝たい。

「俺のことはいいんで、早く進んでください。じゃないとまた流される」

「は、はい!」

 志摩さんはマップ片手に歩き始めた。

「えっとまずは……。……あれ……?」

 俺がいるせいなのかどうかわからないが、志摩さんはずっと独り言をつぶやいている。

 前に進んでいるが……進んでいない。

 ――ああ! もう!

「どこに行きたいんですか!?」

「あ……え……その……ここ……」

「反対方向じゃないですか! 全く! 鈍くさいな!」

「ご、ごめんなさいぃ……」

 俺が誘導までしてやらないといけないのか!

 くそ!

 面倒だな!

「すみません、すみません。地図もまともに読めなくてすみません……」

 イライラしていたが、志摩さんが半泣きで何度も謝っていることに気がつき、我に返る。

 周囲からの、冷たい視線。

 いい年した男が、女を泣かせているようにしか見えないこの図。

 完全に俺、悪者。

「し、志摩さん。早く行きましょう……こんな所に突っ立っていると、通行の邪魔になるので……」

「は、はい……?」

 俺は何事もなかったかのように、彼女の手首をつかんで半ば強引に進み始めたのだった。

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