30話

「うわぁー……人であふれかえってる……」

 外も大概だったけど、中には顔が引きつるくらいには人がいた。

「じゃあここからは自由行動で。沖君、交代したくなったら連絡を」

「あ、はい……」

 交代とかしてくれるのか。

 だったら最初から付き添っておいてくれよ……

「よぅーし、頑張るぞぉー」

 何を頑張るのかわからないけど、明日見さんは気合いを入れて飛び込んでいった。

 志貴君なんて、もういないし。

「沖君コレ、場内のマップ。ハイドランジアのブースはここだから」

「どうも……」

 ご丁寧に、俺が近づきたくない場所まで教えてくれた。

「やー、さすがにここまで来てハイドランジアには近づきたくないよなー」

「同感です……え?」

 会社から左遷された身としては、恐らく本社や本店人員で固められているであろう、自社のスペースには近寄りたくない。

 でも、店長も? 近づきたくないって?

 どうしてですか。と、聞こうとしたけど……いなくなっていた。

「あああ~沖さぁぁぁん~助けてくださぁい」

 志摩さんのヘルプに我に返る。

 ボーッとしていたら、彼女は人の波に流されてしまっていた。

 何やってんだ……全く……

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