22話

 来てほしくないと思う日ほど、早くやって来る。

 そう感じるのは、俺だけだろうか。

「おはようございます! お待たせしてすみません!」

 待ち合わせ場所の駅で待っていると、明日見さんと志摩さんが二人一緒に現れた。

 もしや明日見さん……迎えに行ったのか?

「沖さん、私服ですね! 初めて見ました!」

「え? ああ……いつもスーツですもんね」

 別にラフな格好でいいと言われているが、何となくスーツを着てしまう。

「それじゃあ、行きましょう! いざ! マステの旅へ!」

 明日見さんが先陣を切って歩き出す。

 俺と志摩さんはトボトボとその後ろについて進んだ。

「……沖さん。本当は行きたくないですよね? こんな……」

 道中、志摩さんが明日見さんに聞こえないように、こっそり話しかけてきた。

「何て言うか……そりゃマステに興味があるかって言われると、ないですけども……。それよりも、俺は本店に行くっていうことに対して、気が重くてですね……」

 志摩さんは俺の言いたいことを察してくれたようだった。

「あの。明日見さんを説得して、せめてお店変えましょうか……」

「いいんです! 大丈夫です……明日見さん張り切っているし、イベントやってるんでしょう? せっかくだから行きましょう」

 あんな学校だらけの地に店を構えている学園前店とは違い、本店は都心部にある。

 とんでもないことに、七階建てのビル全てが紫陽花堂なのだ。

 文房具ビルなんて呼ばれているくらいだ。

 つまり、それがどういうことがわかるだろうか。

 ――知り合いがいてもおかしくないということだ。

 たとえば同期とか。

 部署は違えど、本店配属になった同期がいてもおかしくない。

 そんな偶然は起きないと信じたい。

「わぁ……人が多くなってきましたね……」

 そりゃそうだ。

 日曜日とか関係なしに人が多いところに来ているのだから。

「もう少しなので頑張ってください! 志摩さん!」

「う、うん……」

 明日見さんに手を引いてもらいながら、志摩さんは前へと進んでいく。

 店はもう見えている。

 俺も人混みをかき分けていっていると……

「あれ? もしかして、沖君じゃない?」

 恐れていたことが起きた。

 振り向くと、一人の女性がそこにいた。

「やっぱりそうだ! 久しぶり!」

「えっと……平打ひらうちさん?」

「そうそう!」

 一番で会いたくない、営業の同期だ。

 会社で顔を合わせるときは、ポニーテールの彼女は今、髪を下ろしていた。

 なので、一瞬誰だかわからなかった。

「元気? こんな所で何しているの? 買い物?」

「まぁ、そんなところ……」

 俺は非常に気まずいというのに、彼女はそんな雰囲気を一切出していない。

 ……俺に気を遣ってくれているのだろうか。

「ちょうどさ、同期何人かで遊んでいるんだけど……」

「は? 日曜なのにわざわざ?」

 自分のことは棚に上げて、つい言ってしまった。

 何で日曜に会社のやつと会わなきゃいけないんだ。

 友だちじゃあるまいし。

「うん、そう。日曜なのにわざわざ。――あっちでみんな集まっているから、行かない? 昼間っからお酒飲んだりして、楽しいよ!」

「いや……疲れるからいい……」

「……だよね」

 行くわけがない、この俺が。

 第一、そこにはあいつだって――

「沖さーん! どこに行っちゃったんですかー!」

 明日見さんの呼ぶ声に、我に返る。

 見ると、店の前で二人が俺を探してキョロキョロしていた。

 志摩さんが俺に気づいて、手を挙げようとしたが、平打さんの存在に気がつき、そのまま固まる。

「――ごめん、そろそろ行くよ」

「あ、ちょっと」

 早口で彼女に別れを告げ、急ぎ足で二人の所へ向かった。

「あ! 沖さん! どうしたんですか!」

 息を切らしている俺を見て、明日見さんが心配してくれる。

「すみません……キャッチに捕まっちゃって。それより早く中に入りましょう」

 同期の目から早く逃れたくて、俺は二人を急かした。

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