20話

「どうしたんですか? 今日はお休みですよね?」

「うん……時間が出来たから、替え芯を買いに……。あ、お疲れ様です」

 志摩さんは俺を見て、軽く頭を下げた。

「志摩さん、大丈夫ですか? とてもお疲れのように見えますけど……」

「うん……就活のことで気が滅入っちゃって……」

 出たな、就活。

 彼女の場合、とても苦労しそうだもんな……

「三年生になると、就活ガイダンスみたいなのが急激に増えるでしょう? OB、OGの人たちが来て説明してくれたり……。一応ちゃんと全部参加しているんだけど、聞けば聞くほど私、大丈夫かなって胃が……」

 彼女は苦しそうにお腹の辺りを手で押さえた。

 大丈夫、何とかなるよ!

 と、無責任なことはとても言えない……特にこの人には……

「大丈夫ですよ! 志摩さんならいけますよ!」

 おいー!

 言ってる傍から簡単に大丈夫って言うなー!

 大丈夫じゃないんだよ!

 自覚があるから胃が痛いんだよ!

 ……とは言えず。

「志摩さん、教育実習もあるんですよね」

「そう……秋からだけどね……。そっちも上手くやれるか不安……。どうしよう。幼稚園の先生にもなれなくて、就活も失敗しちゃったら!」

 どうしようって、どうにかするしかないんだよ。

 ……これも言えないな。

「そんなに心配しなくても、志摩さんならきっと上手くやれますよ。バイトだってきっちりこなしているじゃないですか」

「うぅぅ……明日見さんはいいよね……可愛いし、ハキハキしているし、誰にだって明るく接することができるし……」

「し、志摩さん……」

 なんちゅーネガティブな……

 さすがの明日見さんも、困ったように俺を見てきた。

 俺に助けを求められても。

「志摩さん……まだ始まってもいないことにあーだこーだ言っても仕方ないでしょう。それよりも、失敗しないようにどうすべきか、準備をしたらどうですか。うじうじ悩むだけ時間の無駄かと」

「時間の無駄……」

「そ、そうですね! 準備! 準備をしましょう! せっかくガイダンスを受けられているんですから、何かいい案がありますよ、きっと!」

 明日見さんの必死のフォロー。

 そして余計なことを言ってしまった俺。

 駄目だ……この人を見ていると、イライラする……

「……失敗するときは失敗するんです、それを恐れていたら、何も出来ないですよ。いいじゃないですか、お得意の演技で乗り切れば。それだってある意味一つの武器だし」

「わ……私は……」

 特に悪気はなかった。

 というか俺、間違ったこと言ってないだろ?

 なのに、彼女はわなわなと肩を震わせていた。

「どうしようもないくらい人見知りで、初めて話す人を前にすると、緊張して言葉が上手く出なかったりします……それを治したくて、演劇部に入りました……演技をすることを覚えました……。でも、それは本当の私じゃない……」

 ボロボロと大粒の涙が、彼女の頬を伝う。

「演技じゃ意味がない……ちゃんと、私が……私が現実を向き合わないといけない……だから、あえて接客のバイトを選んだのに……」

「志摩さん! 泣かないでください!」

 明日見さんが慌てて彼女に駆け寄る。

 俺は何も言えず、ただ茫然と立ち尽くしていた。

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