11話
「沖君、ディスプレイとかやったことある?」
「えっ? いや、ないです」
急に話を振られたので、少し声が裏返ってしまった。
「俺はやらされたけどな……今は違うのか。店とか回ってたんでしょ?」
「行ってましたけど……こんなふうには……」
……って、あれ?
この人、今……
「えっ? 沖さん、営業だったんですか?」
「――……」
やっべぇ! バレたくないやつにバレた!
「……何の話ですか?」
「営業だったのに、店舗勤務? よっぽど成果を出せなかったんですか?」
うるせぇ! 違ぇわ!
――と、怒鳴りそうになったのを必死に堪えた。
落ち着け……落ち着くんだ……俺……
「お前、店舗勤務のことをバカにしているだろ」
「してないですよぉ~……」
「店舗からのし上がったやつもいる。あと、若いうちは、教育の一環で必ず一度は店舗へ回されることになってるんだよ。お前んとことは違うんだ」
さすがの長船もこのときは空気を読んで、「すみません」と首を引っ込めた。
これ以上探られるのはごめんだ。店長のデタラメで助かった。
「丁度いいからこいつを手伝ってやってよ。覚えておいて損はないだろ」
「わかりました」
不本意だが、他社の営業マンからディスプレイの仕方を教わることになってしまった。
「よろしくお願いします」
「こちらこそー。俺、実はこういうの得意だかんね。バッチリ伝授しちゃうよー」
慣れた手つきで、長船は準備を始めた。
「じゃあ、あとはよろしく」と、店長はバックヤードへと戻っていく。
「沖さん、頑張ってください!」
明日見さんのエールが励みになる。
「ハーイ!」
長船のやつが明日見さんに手を振る。
いや、お前じゃねぇから!
「ほんじゃあ沖さんは、これ開けてくださーい」
長船の指示に従って、俺は作業を開始する。
要所要所で気になった点は、メモをとる。
「お! いいの使ってますねぇ、沖さん!」
すると、そんなふうに俺の手元を見て、やつは言った。
いいの……?
「ペンです!
全く意識していなかった。
俺が持参したペンは、昨日のスパルタ教育で大破してしまった。
碓氷さんがその辺にあったものをくれたので、使っている。
「……長船さんも結構文房具が好きなんですか」
パッと見て、どこのメーカーの何ていう商品かなんて、俺にはわからない。
有名どころは何となくわかっても、細かいところまでは……
「そうっすねー。俺、子どもの頃は図工の成績が良かったんですよ。工作とか好きで。だから文房具は昔からよく使ってましたよー。どこの糊がいいとか、気がついたらこだわってましたねー」
「へぇ……そうなんですか……」
こんなやつでも文房具に関心があり、よく知っている。
――そう思うと、こいつだけには負けたくないという闘争心が湧き上がってきた。
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