4話

 小学生客のピークを過ぎると、今度は高校生、大学生客がちらほらやってきた。

 みんな、ノートやペンを買っていく。

 落ち着いてきた頃、店長が店に顔を出した。

「俺、あがるわ。悪いけど後はよろしく」

「お疲れー」

 ひらりと、碓氷さんは店長のほうを見向きもせずに手だけ振った。

 やはりこの二人、年齢が近いのだろう。

「沖君、初日からフルで申し訳ないけど、最後まで頑張って。碓氷さんこう見えて仕事はできるから」

「こう見えては余計だろ」

 いやもうそれはよくわかりました。はい。

「あともう一人、アルバイト来るし。まぁ仲良くやって。じゃ」

 淡々と彼は言い、店の奥へと引っ込んだ。

「あいつ、今日で8連勤目なんだよね」

「8!?」

 思わず俺は叫んでしまった。

 それ駄目だろ。

 会社的にも。

「そんくらいやばいってこと。私だって協力したいけど、家庭があるからさ。限界がある。あんたが来たから、もう少し楽にはなるだろうけどね……」

 碓氷さんは、深いため息をついた。

「……もしかして、秋谷店長は明日も出勤ですか」

「昼からだけどね。朝はもう一人のパートさんが入るから」

 9連勤になってしまうではないか。

「あんたが使いものになるまでの辛抱さ」

 ……そうなったら俺は……本社に戻れるのか!?

 確実に俺が抜けたら、また店長の負担が大きくなるのでは……

「……どうしてこの店舗に社員を増やさないんですかね?」

「そこまで売り上げもないし、都会の店舗みたいな層のお客が来ないからじゃないの……って、あんた本社から来たんだろ? あんたが一番そういう事情わかってるでしょ」

「俺、営業なのでそういうことはよくわからなくて……」

 もごもご言うと「しっかりしろよ」と、背中を叩かれた。

「ウィッス。交代しまーす」

 むせていると、背後からそんな声がした。

 店長が言っていたアルバイトか。

 眠そうな目の男の子が立っている。

 エプロンの下には、どこからどう見ても学校の制服にしかみえない服が。

 ……高校生か!?

「ああ、お疲れ。もうそんな時間? 鈍くさい新人の面倒を見ていたらあっという間だ」

 ちょっと……本人を目の前にして言うか。

 傷つくぞ、さすがに。

志貴しき、私この人に仕事教えなくちゃいけないから、一人で店番しててくれる? 何かあったら呼んで」

「オッケーでーす。その人が、本社から来た人?」

 少年は、首を傾げながら俺を見た。

「そ。二人ともちゃんと挨拶しな」

 お母さんみたいに注意をされ、俺は名刺を彼に渡した。

「沖です。今日からお世話になります……」

「わー。名刺とか初めてもらった」

 彼は、嬉しそうに名刺を受け取った。

吾妻あづま志貴です。好きに呼んでいーよ。みんな下の名前で呼ぶし」

 後々聞いていると、ここで働く人はみんな、彼のことを名前で呼んでいた。

 なので俺も自然と、〝志貴君〟と呼ぶようになっていくのであった。

「学生の子らのピークが過ぎると、閉店まで暇だからね。裏で事務作業やっちゃうよ」

 男子高校生一人に店を任せて大丈夫なのかという、明日見さんのときと同じような不安を抱いてしまうが、どうせ、俺が思っている以上に彼もまたしっかりしていて、難なく仕事をこなしてしまうのだろう。

 むしろ心配しなくちゃいけないのは、俺自身のほうだ。

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