3話
「いつまで寝てんの。さっさと起きな」
何かで頭を叩かれ、俺はうっすらと目を開けた。
どこだ……? ここは……?
あれ……?
俺、何してたんだっけ……?
「ほら、しゃんとしな。時間ないんだから」
ぼやける視界の中、女性が立っていることだけは認識できた。
「えっと……?」
「だらしないね。寝ぼけてんじゃないよ」
呆れたようにそう言われ、やっと意識が戻った。
仕事中だった!
慌てて起き上がると、掛けた覚えのないブランケットが床に落ちた。
誰だ? 掛けてくれたのは……
「目、覚めた? 早く行くよ。早く交代してやんないといけないし」
「す、すみません……。あの、俺、今日から入った沖です」
きっと彼女もここのスタッフなのだろう。
俺は早口で名乗った。
「ああ、うん。店長から聞いてる。本社の人なんだってね」
よく見ると彼女は……何というか……とてもガラが悪かった。
耳には重くないのかと聞きたいくらいピアスがついている。
そして髪は黒に混じって赤が入っているではないか。
い、いいのか……そこまで派手というわけではないが、こういう人を店に立たせて……
「私は
碓氷さんはそれだけ言って、俺を置いて事務所を出て行ってしまった。
あんな身なりだが、店長と同じくらいの年齢だと見受けられる。
それにしたって、愛想のない人だ。
明日見さんと違って、ニコリともしなかった。
俺はブランケットをたたみ、紫陽花堂のエプロンを手に取って、彼女の後を追った。
「お疲れ、明日見ちゃん。あがっていいよ」
「お疲れ様です! 碓氷さん。今日は早く出てきてもらってすみません」
店内は相変わらずガランとしていた。
明日見さんは、申し訳なさそうに碓氷さんに謝った。
「いいよ。授業があるんでしょ? 今日は旦那の帰りが早い日だし、気にしないで」
旦那!?
この人……結婚しているのか……
今更指輪をしていることに気がつく俺だった。
「ありがとうございます! 沖さん、この後も頑張ってくださいね!」
彼女は軽く引き継ぎをしてから、帰って行った。
授業って言っていたな……
アルバイトだし、彼女、学生だったのか!?
「夕方になるとガキどもが多くなるからね。気合い入れていきなよ」
……そう言うあなたは、全く気合いが入っているようには見えませんけど?
碓氷さんの言う通り、学校が終わって一度家に帰った小学生たちがちらほら店にやって来た。
私立の小学校も近くにあるので、学校の帰りにそのまま寄る子たちもいる。
客が多いというよりかは、小さな子どもたちを相手にしなければいけないことに、結構気を遣う。
そんな俺に対し、意外にも碓氷さんはひょいひょいと小さなお客たちを捌いていた。
こんなに愛想がないというのに、子どもの扱いは慣れているというのか……
一体、この人は何者なんだ……
あまり女性に根掘り葉掘り聞くのも失礼だろう。
まだ出会って数分だ。
……初対面で俺は叩き起こされたけど。
「何ボーッとしてんの。他にも仕事あんだよ」
色々と脳内で考えていると、叱られてしまった。
「やーい、怒られてやんの!」と、男子小学生たちが囃し立てる。
くそう。がきんちょどもめ……
無言でにらみつけると、やつらは笑いながら走って店を出て行った。
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