林檎

 林檎は、銀河鉄道の夜を貫くキーアイテムともいえる存在です。天気輪の建つ丘に逃げてきたジョバンニが、その丘から見た列車の中で、旅人が林檎を食べている様子が描かれています。

 林檎はジョバンニの夢ともいえる銀河鉄道の旅において、キリスト教徒である青年と姉弟たちとの出会いの場を鮮やかに彩ります。ふっと林檎の匂いがしたかと思うと、姉弟たちは突然に現れるのです。そして、姉弟たちと親しくなったジョバンニたちは、灯台看守から『黄金と紅でうつくしくいろどられた大きな林檎』を渡されます。姉弟たちはそれを食べてしまいますが、ジョバンニとカムパネルラはそれを大切にポケットにしまっておくのです。

 近代のヨーロッパにおいて、林檎は宇宙の形そのものだともいわれていました。また、林檎は楽園から追放されたアダムとイブが食べた知恵の実であるともされています。林檎は人類が失った楽園への手がかりでもあり、宇宙を体現する食べ物でもあるのです。

 それを姉弟たちは食べてしまいます。そして、次の駅で彼らは一緒にいようというジョバンニの誘いを断り、南十字(サザンクロス)が輝く駅で下車するのです。

 姉弟たちのおこないは、アダムとイブが引き起こした原罪の再現であるともいえます。その原罪を背負うゆえに、姉弟たちは南十字が輝く駅で降りなければならないと考えることが出来ます。


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