3章 第12話

「リイリって言ったか。お前の能力は?」

そう問うと、彼女は一本の矢を取り出し、矢じりの部分を見せてきた。よく観察すると、薄く液体が塗られているのが分かった。

「私のは、弱い毒や薬なら一瞬で作れちゃう力、かな…。毒と言っても、相手を痺れさせる位しか出来ないけど。ないよりマシだから、メイリの短剣や、私の矢全部に塗ってあるわ。」

闇影が咆哮する。耳の鼓膜が千切れるかと思える程の大音量に耐えかね、耳を塞ぐ面々。キーンという余韻の耳鳴りが止んだ後、改めてノアは口を開く。

「…ジュリナ、良いか?前回と違って、ルウについての記憶が勝手にシェアされる可能性が大きいけど…。」

「えぇ、私は良いよ。リイリさんと、ノア君次第かな。」

一体何の話なのか分からないリイリは首を傾げた。ラリアもラリアで目をぱちくりさせている。

「…っと、しゃがめ!」

先見により攻撃を予測したノアが急いで回避の指示を出す。直後、頭スレスレの真上を大鎌が通り過ぎて行った。

「…俺の能力は共有って言ってな。ざっくり言うと、他人の力を借りたり、思考をシェアする力なんだ。けど、シェアする相手の能力に上書きする形になるから、その間はお前の毒を作る能力は使えない。」

「…特異属性は?」

「シェアした全員が扱える様になる。但し、自分の属性と交換する…と言うと語弊があるが…それに近い状態になるから、同時に違う属性は発動出来ない。つまり、如何に臨機応変に切り替える事が出来るかが、大きく戦闘に影響しやすいんだ。」

説明を聞きながら、リイリは神妙な面持ちになる。一方ラリアは、抱いた疑問に耐えかねてノアにある事を尋ねた。

「ちょ、ちょっと!あんたの能力って、複数人と同時に共有出来たの!?」

驚き顔のラリアを一瞥し、一回だけ深く頷いてみせる。詳しい説明は省き、「先日の戦闘で知ってな」と付け足しながら。

「…ノア君?」

ラリアの姿が見えていない二人は、突然のノアの行動と言葉を訝しみ、呼びかけた。

「…!また来るぞ!今度は左に転がれ!」

ハッとした様子で、二人は闇影の方を見遣る。目に飛び込んできたのは、得物を大上段に構える姿。ノアの指示に従い左に避ける。ギリギリの所で刃は空を切り、地面を引き裂くに留まった。

「分かったわ。特異属性が使えるのなら問題ないし。」

「…決まりだな。じゃあ、やるぞ。」

そしてノアは神経を集中させる。本当はシノともシェアしたままで居たかったが、ルウを救う為には彼の能力が必要不可欠だと踏んでいた。

…だから扱いにくいんだよこの力は。

ノアは心の中で舌打ちした。そして二人との共有が完了し、改めて戦闘モードに切り替える。二人の思考がノアに入りかけるが、それを妨げるかの様に闇影が再び咆哮する。

「…!右だ!」

「言われなくても!」

「分かってる…!」

三人は息ぴったりに攻撃を躱した。

「わわ…!」

ノアの肩に乗っていたラリアが振り落とされまいと必死に衣服を掴む。その声で彼女の存在に気付いた二人は、目を丸くさせた。

「星霊…?」

「さっきいきなり独り言言ってたのは、その子と話してたのね。」

「そういう事だ…!」

肯定もそこそこに、連続で魔の手を伸ばしてくるそれを続けて回避。ノアはジュリナの属性を借り、風を操って塊をそのままぶつけた。ほんの僅かに抵抗が生まれた隙に、ノアは鎌に飛び乗る。

「これなら、どうだっ!」

ノアは、鎌を持つ敵の右腕目掛けて近距離からライフルを発射させた。その威力は殺戮的。

「グゥゥッッ…!」

やはり、あの技で阻まれたが、最初の一発だけは腕を掠めたらしい。微かに傷がついたのを、ノアは見逃さなかった。

「やっぱり不意打ちしかないか…。」

「なら、私の属性が最適ね。」

リイリの発言に一瞬首を傾げたが、直後、彼女の思考が頭に流れ込んできた。その内容に、言葉の意味を理解する。そして、やっと勝機が見えた事で、自然とノアの口角が僅かに上がった。

「いっちょ、やってやりますか。」

ノアの思考が共有によって二人の脳に伝達される。これならば、勝てるかもしれない。心からリイリ達の参戦に感謝しつつ、ノアはライフルを構え直した。

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