3章 第13話

「メイリちゃん…だっけ?頼りにしてるよっ!」

言いながら、シノは拘束する隙を作る為気を窺う。槍を構え、臨戦態勢を取った。またもやカードを懐から出すルウ。

「…任せて。」

可愛らしい声とは裏腹に、放つ気迫は正に戦士のそれだった。リイリが生成した毒が塗られている短剣を両手に構え、相手の動きを読もうと試みる。

先に動いたのは…ルウだった。カードをこちらに飛ばしてきたかと思うと、それは鋭利なナイフへと姿を変える。

「アリアドネ!」

メイリは自身の能力を発動し、無数の糸を作り出してそれを絡め取る。

「…。」

再度ルウがカードを取り出す。またナイフかと予測して、更に多くの糸を繰り出すが、彼の攻撃は想像とは違っていた。

「え…。」

それらは小規模の炎へと変わり、融合し、全てを焼き尽くす業火と変貌した。

「不味い…。」

「メイリちゃん、掴まって!」

危機を感じたシノが、メイリの手を攫いそのままウィンフライで飛翔する。たった今まで居た場所は、既に煉獄の様な火の海が出来上がっていた。

「…ありがとう。」

「うん。それにしても…やっぱり厄介だね…。」

あれでは中々近付けない。だが、勝機がない訳でもない。彼の攻撃は、専らカードを使用している。持てる道具の数には限りがあるものだ。つまり…。

「…消耗戦。」

同じ結論に至ったメイリが、ボソリと呟いた。彼女は頭の回転が早いらしい。自分と同じ答えを導き出した事に若干の安堵を覚えながら、一つ大きく頷いた。

「こっちの体力次第だけど…。いける?」

「やってみせる。それが、私達の仕事だから。」

小さい身体からは想像もつかない、意志の強さと責任感、そして矜恃。相当な覚悟を持ってこの職に就いている事が容易に窺えた。

「一方的な防衛戦…。分が悪いけど…僕はあちらに手が及ばない様に惹き付ける。メイリちゃんはサポートお願い。」

あちら、とノア達の方を一瞬見遣るシノ。彼の言葉に頷き、メイリは小型のナイフを数本取り出した。

「一本でも掠る事が出来れば…痺れさせられる。」

「ひゅ〜、中々怖い武器持ってるね。それじゃ…行くよ!」

シノはルウに向かって一直線に接近。そのまま槍で薙ぐ。相手は後退してそれを躱し、こちらにカードを投げつけようとした。

「アリアドネ…!」

いつの間にか場所を移動していたメイリが、別方向から拘束を試みる。だが、やはり気付かれ、シノに投げられようとしていたカードがメイリに矛先を変えた。

しかし、これが本当の目的でもある。その隙にシノは属性・魅了を発動し、ルウの注意を完全にこちらに移そうと動いた。

「…!」

「よし、一先ずは成功、かな?」

狙い通り、ルウがこちらを向く。だが安心はできない。先程の様な炎を顕現されたら、メイリもろとも被害を被る危険は十分にあった。

視界の向こうで、メイリが投擲用のナイフを構えたのを認識する。

「…さぁて、踏ん張りどころだね…!」

長丁場になる事を覚悟し、シノは魔術を発動させたままルウに向かって突進した。

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