3章 第10話

「ジュリナ、一瞬だけあいつの気を逸らせるか?」

「分からない…けど、やってみる。」

頼んだ。そう言い置き、ノアはウィンフライを稼働させ地面から離脱する。一瞬こちらに注意が向くが、ジュリナがそれを阻んだ。

「ほらこっちよ!」

杖を天に掲げ、振り下ろす。すると少々細くはあるものの、雷が闇影へと降り注いだ。

「グウ!?グオオッ!」

最初の一撃は左腕に少しの裂傷を残し、二撃目は例によってで防がれる。そのまま三撃目、四撃目…。予想通り、攻撃は届かない。だがそこでノアが動いた。

「喰らいやがれ!」

真後ろに移動し待機していたノアが、ライフルのトリガーを引く。ラリアの能力、オーラが込められたその弾丸は本来よりも数倍の威力があった。

「グウゥ!?」

見事それは闇影の脇腹に命中し、恐らく今までで一番のダメージを負わせる事に成功した。だが、致命傷とは程遠い。

「チッ…。だが、一応成功、か…。」

その瞬間、ノアの周囲の空間が赤く染まる。直後、大鎌の刃が宙を翻った。それを掻い潜りながら、ジュリナの傍へと着地する。

一方シノも、ルウを前に悪戦苦闘していた。正直に言うと、彼の魔術の腕はシノを凌駕しているのだ。変化と創成…だが、それ以外にも何かある。これは幾千の戦いを掻い潜ってきた戦士の勘だ。恐らくルウにも特異属性が宿っている。それがこれ程の強さに繋がっているのだとシノは見ていた。

「ノア君を悲しませたくはないんだけどね…。でも、致し方ない…かな。」

「……。」

「本気を出させて貰うよ。」

そう言ってシノはルウにボウガンを向ける。標準を怪しく輝いている左目に定め、矢を放った。

「…。」

だが相手はまたもやカードを取り出し、そのまま横に薙ぐ。するとそれは姿を失い、代わりに半透明のバリアが展開された。

「…やっぱり、変化だけじゃない様だね。どちらかと言うと今のは創成に…。」

「炎。」

「!?」

ルウが口を開く。それを認識した時には既に、シノの周りを炎が取り巻いていた。

「くっ…!」

シノはウィンフライで飛び立つ。と、その隙を狙ってルウが変化させたナイフを複数投擲する。

「…あーもうっ。なら…これはどうかなっ!」

そう言って空中に無数の矢を生成。手を振り下ろし、一斉に放った。相手のナイフは槍で撃ち落としながら、向かって右側に回り込む。矢の対処に追われ反応が数瞬遅れたルウに、槍の柄で渾身の一撃を叩き込んだ。

「…っ。」

堪らず体勢を崩したルウ。逃さんとばかりに猛追する。構えた槍が彼の脇を捉えた。

「グゥゥッ!」

「!?」

その時、突如としてこちらに矛先を向けた闇影が、自身の得物をシノに向かって投げつけてきた。

「くそ…っ!」

すぐさま前方に巨大な盾を複数生成。何重もの鉄の塊に、ギィンッと金属同士がぶつかり合う不快な音が響き渡る。それに顔を顰める。そして…。

パキンッ…と、一枚目の盾が割れた。

「!?」

だが二枚目の壁に阻まれ、大鎌は勢いを失い闇影の元へと戻っていく。もし創り出していたのが一つだったら…。恐ろしい光景が頭を過った。

「シノ!大丈夫か!?」

「はぁ…何とかね…。本当に厄介だな…。」

そもそも、たった三人…ラリアを入れれば四人だが、少人数で挑む様な相手では無いのだ。応援が欲しいが、何せあてがない。

「…。」

折角隙を突いたにも関わらず、既にルウは体勢を整えナイフを構えている。能力もなかなか発動出来ないままだ。このままでは…押し負ける。

「グオオオッ!」

「ぐ…っ!」

闇影の咆哮が力強い振動を生み、身体の芯を揺さぶった。続いて、鎌を横に一閃、グルリと一周させる。

「うおっ!?」

「きゃっ!」

突風が四人を襲う。砂塵と瓦礫が宙を舞い、足が地面と離される。次に認識したのは、背中に走る鈍痛と肺の圧迫感。そして閃く刃。

不味い…!思わず目を瞑った、その直後。聞き慣れない声がこの場を支配した。

「アリアドネ!」

余りにも戦地に不釣り合いな可愛らしい声。それと同時に現れた、敵の大鎌を絡め取る白い糸の様なもの。

「大丈夫?本当は私達、あいつの討伐は認められてないんだけど、非常事態って事で一つ見逃して欲しいな。」

現れた二つの影。薄暗い中でも光り輝くプラチナ色の髪。そして…黒い剣と盾の紋章。

黒き守護者ディーシルトメイリ。」

「同じくリイリ。」

二人は一拍置いて、息ぴったりに宣言した。

白き鷹ブランファルケの皆さんに、助太刀致します!」

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