3章 第9話

「グウウウウッ!」

闇影の雄叫びが路地裏に反響する。そのまま大鎌を斜め上から勢い良くこちらに向かって振り落とした。

「後ろに退け!」

ノアの言葉のまま、三人は後退し刃を逃れる。

「シノ、ルウに専念してくれ!シェアを切るから、お前のメンタルハックで…!」

「はいはい…その代わり、魅了で闇影を惹き付ける事は出来ないから、頑張ってね。」

「ああ、分かってる!」

一先ずルウの正気を取り戻す事が先決だ。それにしても…。ノアは自身の数倍にも及ぶ体長の闇影を見上げる。

あの嫌な予感は外れなかった。ジュリナの態度からしてみても、彼には恐らく何かがある。それは、ずっとノアが感じていた、ルウ自身が抱え続けている何かに繋がるものだと本能的に察した。そしてそれが、自分達と相容れないものなのかもしれない事も。闇影の行動からも、容易に想像出来てしまう。

「くっそぉ!」

「ノア…。」

傍に居るラリアが顔を歪める。泣きそうな、祈る様な声。それ程、自分は酷い様子だっただろうか。

「グオオッ!」

「っ!」

そんなノアを嘲笑うかの様に、闇影が大鎌を振り落とした。あまり機敏とは言えない攻撃だが、その分パワーが桁違いだ。リナの怪我がもしこいつにやられたのだとしたら、とんだ幸運な事だったのだと思わざるを得ない。痛ましい傷だが、五体満足でいられたのだから。

「…っ、調子に、乗んなっ!」

ノアは剣に薄い緑色のオーラを宿らせ、そのまま振りかぶる。放たれた半月型の刃は、幾数にも分散し、全て闇影へと吸い込まれていった。

「グウ…。」

相手は避ける様子もなく、ただそれを見つめるだけ。すると徐に片手を前へと翳した。そして…。

「なにぃ!?」

前方の空間が歪み、黒い渦が浮かび上がったと思ったら、ノアの攻撃は全てその中へと吸い込まれてしまった。文字通り、跡形もなく。

「あー…やっぱか。あいつ、視界に入る攻撃は全部で防いじゃうの。不意を突こうとしたけど、どう足掻いても浅いダメージしか負わせられなかった。」

やはり推定レベル十の闇影なだけはある。何とも厄介な能力だ。もし倒せたとしても、失技を持っていたとしたら…。そしてその内容も皆目見当もつかない。

「…なら、こいつでどうだ!」

そしてノアは手に持っている武器を巨大なライフルへと変化させた。その魔術を見たジュリナは目を丸くさせる。

「え、何で変化属性なんか使えるの?他にも仲間が居たり?」

「あー…いや、実は今隣にラリア…契約してる星霊が居てさ。その属性を借りてるんだよ。」

「成程、そうだったのね。」

「…って、悠長に話してる場合じゃねぇ!右だっ!」

「グゥゥッ!」

また一振り、殺人的な一撃を繰り出す敵。二人は右に転がり避ける。その先でジュリナが地面に杖を突き立て、勢い良く立ち上がる。そのまま魔術を展開。一拍遅れて、巨大な植物の蔓が現れ、闇影を捕縛しようとうねり出した。

「…。」

ヒュンッと、何かが真横から飛んでくる。それは目の前の蔓を全て真っ二つに切り裂き、そのまま壁へと突き刺さる。

「ルウ!?」

「ごめん…。なかなか、強敵でさ。」

シノも、ルウの意識を取り戻せないか作戦を考えていた。だが、予想外にも相手が強く、なかなか手を出せずにいたのだ。そして思考に気を取られていた結果、ノア達の妨害を許してしまった。

「…ノア君には悪いけど、無傷とはいかないかな。」

「シノ…。…分かった、だけど…絶対に殺すな。」

一種の威圧とも取れる気。肌が裂かれそうな視線。ノアがどれだけルウを助けたいかが容易に伺える。

「…分かってる、最前を尽くすよ。」

決して言い切る事はせず、然れど少しの安堵を覚えながら、ノアは再度闇影へと向き直った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る