3章 第8話
「あはは、やっぱ強いなぁ…ルウ君は。」
「……。」
その目に感情は宿っていない。意思も何も無い、ただのガラス玉の様にも思えた。幾度も魔法を撃ち合い、その度に魔力を浪費する…。人間の心理も何も突けない、余りにも無謀な耐久戦。少しの期待を込めて先程から呼びかけているが、尽く裏切られ、最早ただの独り言と化している。
「ねぇ、ずっとこうなる事を分かってたから、諦めるしかなかったんだよね。抗った所で操り人形になるだけだって…。」
そう、これが、彼が自分の父親に逆らえない理由の一つ。今もその人達は、彼越しにこちらを見ているのだろう。ルウの能力は、接続を切っている間は干渉出来ない。が、例外もある。詳しくは分からないが、彼の父親の力はそれ程のレベルらしい。
「でもさ…本当は、ノア君と友達になりたかったんじゃないの?そうでなかったら、何であの時、自分の首を絞める様な事言ったの?」
「…。」
依然ルウは答えない。だが、ジュリナは語りかけ続ける。時間稼ぎも目的だったが、それよりも…彼にこの声が届いて欲しかった。
「貴方は
今度は、瞳の向こうで高みの見物をしているであろう人物達に訴えかける様に言葉を紡いだ。ジュリナ自身も全てを知っている訳では無い。だが、今後彼が不利にならない様に核たる情報は抑えながら、見えない相手を睨みつける。
「この街に越してきたのは、確かに父親の命令だったのかもしれない。けど…私を助けてくれたのは、学園に入りたいと言ったのは、君自身じゃない!」
やはり微動だに…いや、今一瞬だけ指が動かなかったか?若しかしたらこの声が届いてるのかもしれない。そう思ったジュリナは一気に言葉を畳み掛けた。
「ノア君を助けたのもっ!全部貴方の意思じゃない!何も諦め切れてないんだよ!なら諦めなきゃ良い!だから君はもがき苦しんでるんでしょ!?」
「グゥゥッ!」
ジュリナの言葉を、死神の様な姿の闇影が阻む。大鎌を横薙ぎにし、周りの建物を全て真っ二つに斬り飛ばした。瓦礫は勿論ジュリナとルウの上にも降り掛かる。
「邪魔…なのよぉっ!」
「グゥッ!?」
地面の土を素早く変形させたジュリナは、それを瓦礫と衝突させ、下敷きになるのを防いだ。一方ルウは…指一つ動かしていない。
「ルウ君!?」
何故彼は一歩も動かないのか。正に今、頭の上にコンクリートの塊が迫っているというのに。
「ま…っ!」
ダメだ、間に合わない…!
だが、突如自分の背後から飛び出した影が、それに向かって光る刃を一閃させた。
「うぉらぁッ!」
影は、淡く青に輝く衝撃波を撃ち込み、瓦礫が崩れ落ちる。間一髪、下敷きを免れたのだ。
「ふぅ、本当に危なかったねぇ。」
真横でシノが安堵の息を吐く。そして彼を救った人物…ノアは、勢いよく振り返りルウに近付いた。
「大丈夫か!?というか、何でルウまで…。」
「…ノ、ア…。」
「ルウ君…!」
彼が返事をした。ノアを見る目は、先程とは違い光が灯っている。つまり、あれを避け無かったのは…。
「あ…ぐぁ…っ!」
その時、ルウが頭を抑え呻き始めた。彼が持っていた短い杖が地に転がる。突然の事に驚いたノアは、言葉で呼びかけながら俯いた顔を覗き込んだ。
「…!ダメ、逃げて!」
「え…?」
ピタリとルウの動きが止まる。瞬間、落とした杖を素早く広い、そのままノアが居る空間を薙ぎ払った。
「うおっ!?」
流石の反射神経で、ギリギリの所で回避したノアは、そのままバク転する形で後退する。
「何すんだよ!」
「……。」
「…ルウ?おいルウ!どうしたんだよ!」
その様子の不自然さに気付いたノアは叫ぶ。だが、届かない。
「ノア君、今の彼は普通じゃない。理由は分からないけど、あっちは戦う気満々みたいだよ?それに…。」
シノの言葉を待たずして、闇影が再度鎌を操り、ノアに向かって振り落とした。近くに居たルウには絶対当たらない間隔で。
「やっぱりね…。闇影が、彼には攻撃しない。」
「どうなってんだよっ!」
余裕で躱したノアが、理解に及ばない状況に苛つきの声をあげた。
「…今は説明する時間はないけど、ただ一つだけ言っておくわ。…本気で行かないと、殺されるよ。」
「…っ!くっそ!」
三人は得物を構える。ルウの事は傷付けたくない…。が、それを抜きにしても闇影は何としても倒さねばならない。それならば、やる事は一つだ。
言葉では言い表せない悔しさを一様に堪えながら、恐らく今までで一番の強敵に立ち向かうべく、ノア達は地を蹴った。
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