3章 第7話

「おい!まだ着かないのか!?」

「方向は分かるけど、こうも複雑な道だと…!」

ラリアの言葉に、ノアは口を噤む。彼女の言う通り、路地裏は蜘蛛の巣の様に通路が張り巡らされている。余程この街に慣れ親しんだ人間でない限り、迷わない方がおかしいだろう。

度重なる戦闘の疲れか、全力で走っているからか、息が何時もよりも乱れる。悔しさから唇を噛み締めると、宙を飛んでいたラリアが不意に止まった。

「待って、誰か近付いてくる…。」

「誰だ?」

「分からない…。」

彼女の察知能力は、闇影とその近辺にいる人間に絞られる。それ以外は近くに居る存在の気配が分かる程度だ。つまり、少なくとも闇影ではない。

少し立ち止まって神経を集中させると、遠くから足音が迫ってきていた。しかし、そのリズムは不規則だ。もしかしたら怪我をしているのかもしれない。

「兎に角、戦いに巻き込まれない様に誘導を…。」

「あ…ノア!」

慣れ親しんだ声。ずっと探してた声が、すぐ近くで聞こえた。驚いて振り返ると、正に今足音がしていた方向からリナが姿を現していた。…足を引き摺りながら。

「リナ!?お前、その足…。」

「う、うん…。ちょっとしくっちゃって…。」

「早く手当てを…。」

「待って!それよりも、ジュリナさんって言う人が今、闇影と戦ってるの!」

思わずノアとシノは固まる。知った顔が、危機に晒されている。しかも、達という事は、敵は複数いると言う事だ。

「私が居てもただの足でまといになる…。だから、二人を探してたの。」

「分かった…。リナ、一人で大丈夫か?」

「心配しないで。手当てくらい自分で出来る。私の事より、早く!」

必死な様子に、ノアとシノは一つ頷いた。ジュリナだけで持ち堪えるのは難しいだろう。手遅れになる前に、一刻も早く駆けつけなくてはならない。

「じゃあ、リナちゃんは安全な場所に居て。僕達が何とかするから。」

シノの言葉と同時に三人は再び走る。巨大な闇影を倒せるかどうか、大きな不安を抱えながら。

「あ…ノア…。」

伝えられなかった一つの事実。若しかしたらそれが、余計に彼を苦しめるかもしれない。だが、今言った所でどうなる?何が正解なのか分からぬまま、結局伝えられなかった。そんな自分を情けなく思ったリナは、一人静かに涙を零した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る