3章 第4話

「ああもう!何なの!?」

いつの間にか騒がしくなった街中。遠くからでも感じる明らかな闇影の気配。やはり、彼等の仕業か。

そう、後ろを追ってくるルウと、ルウが…より正確に言うならば、彼越しにこちらを視ている彼奴らが生み出した闇影。勝機は零に近いと悔しながらにも理解出来てしまったリナは、路地裏を駆け回っていた。

「…きっと、騒ぎが大きい方に行けばノア達が居る。でも…。」

三人は確実に闇影の討伐に向かっているだろう。それは断言出来る。だが、ノア達の元に行くことは憚られた。これ以上負担をかける訳にはいかない。何より、市民に犠牲が出るかもしれないのだ。

「……。」

「わっ!?」

ヒュンッと、何かが足元に飛んでくる。少しよろめきながらも何とか躱し、改めて背後を確かめた。すると、鋭利に尖ったナイフが深々と地面に突き刺さっているではないか。

それだけに留まらず、ルウは徐に、懐からタロットカードサイズの紙を取り出す。そして…。

「嘘でしょ…!?」

それらをこちらに向かって投げ、次に瞬いた後には既にナイフや剣、鉄パイプ等ありとあらゆる凶器に変化していた。

「く…っ!」

即座にリナは、持っていたレイピアを盾へと変え、後ろを振り向いて自身に命中しそうなものだけを弾き落とす。

…正直、格が違うとしか言えなかった。自分も魔術は得意な方だと自負していたが、同じ属性所持者でも圧倒的な差がある。あんなにも複数のアイテムを同時に、しかも紙から金属という全く別のものに変えるなんて芸当、出来る人間の方が少ないだろう。複数を変化させられるとしても精々水を氷にとか、その程度の領域だ。

リナは走る。このままでは体力が尽きる方が先だと分かっていながらも、逃げるしか無かった。

「グゥゥ…。」

まるで死神の様な見た目。手には自身よりも大きい鎌。それを悠々と操る闇影は、リナに向かって得物を振り下ろした。

「ちょっ、危なっ!」

幸い動きはそこまで機敏ではなく、当たる事はなかったが、彼奴の攻撃を一回でも喰らえば、確実即死だ。その証拠に、鎌が命中した建物のコンクリートが盛大に破壊され地面に落ちてきている。

…自分は、何時だって役立たずだ。いや、疫病神と言った方が正しいかもしれない。両親という存在からしても、ノアにとっても、白き鷹ブランファルケにもだ。

…今は考えている場合じゃない。リナは頭を横に振って邪念を飛ばそうとした。だが、先程からマイナスな事ばかり頭に浮かんでしょうがない。後ろの二人を迎え撃つ策をどんなに考えても、答えは一つしか見つからない。結局は、三人に助けを求めるしかないという、一番最低な答え。

「…っ!」

一か八か、すぐ前方にあった、人一人がやっと通れるかどうか程度の隙間に身を捻らせる。そして…。

「はぁっ!」

先程の攻撃で落ちてきたコンクリートの一部を、形だけ変化させ完全に道を閉ざした。闇影は兎も角、ルウ自身は暫くこちら側には来れないだろう。

「早く、此処から逃げないと…!」

建物とコンクリートの影に隠れながら、必死に敵から距離を取る。既に疲労困憊で息が荒々しい。だが、今のうちに少しでも時間を稼がなければならない。リナは、上手く死角を縫うように走り、気配を消して、迷路の様な路地裏を必死に進んだ。

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