3章 第5話
「シノ!気を付けろ!」
「分かってる!」
その頃、刀を操る闇影と対峙していた三人は、敵の衝撃波を避け、発砲し、避けられを繰り返していた。一進一退、と言うよりもただのイタチごっことなりかけている。
これでは埒が明かない…そう判断したノアは、周りに使える物がないか戦闘の合間に探していた。瓦礫に布、砂塵、鉄製の骨組み…。何かこの戦況を打破する策を…。
「…そうだ。」
布と骨組み。それらを使えば、もしかしたら…。
「やってみなよ。こんなんじゃどうにもならないし。」
ノアと思考を共有しているシノが、行動を促す。その言葉に頷き、暫く惹き付けてくれと頭で念じた。
「ノア、何するつもり?」
「まぁ見てなって…!」
ウィンフライの出力を落とし、一気に降下する。魔術に長けている訳では無いノアは、直に触れている物程度しか変化させられないのだ。
穴だらけの生地と、剥き出しになって折れた鉄の棒。その二つをかっさらい、闇影の死角に滑り込んで魔術を展開する。
「…目には目を…ってね。ラリア、お前の魔力も借りるぞ!」
「はいはい。」
星霊であるラリアの魔力は、かなり高い。そのステータスにおいては、平均程度しかないノアよりもずっと格上だった。つくづく彼女が契約してくれて助かったと痛感する。
「…!よし!」
そのお陰で、巨大な一つの団扇が完成する。相手の衝撃波に対処しきれないのなら、こちらも同等のものを作り出せば良い。これが、ノアが至った結論だった。
シノの方を見遣ると、目が合う。彼は不敵な笑みを浮かべ、こう言った。
「十秒後、左方向。」
頷き返し、首を傾げているラリアを連れて闇影の左斜め後ろへと待機する。敵はこちらに気付いていない。シノの“魅了”の成果だ。
ボウガンを構えて空を浮遊する仲間の姿を視界の端に捉えながら、カウントが零を指すその時を待つ。残り五秒。闇影が刀を抜いた。同時にシノの周りの空間が赤に満たされる。
三秒。シノが攻撃範囲外を目指して旋回する。
二秒。敵が刀を大上段に構えた。
一秒…零。
「今だぁっ!」
「ヒッ!?ヒシイイイッ!」
自分の掛け声に反射で振り返った闇影。だがもうその頃には、ありったけの熱を取り込んだ、巨大で鋭い空気の塊が目前に迫っていた。
「ヒギッ!ギィ…ッ!」
本能的にその場から飛び退く影を、仲間が見逃すはずがない。
「シノ!」
「これで、終わりだよっ!」
「アッ…ギッ…。」
避けきれなかった空気の塊に右半身を焼かれ、左半身にはシノが放った矢が突き刺さっていた。そのまま闇影は音もなく消滅する。
「…はぁ〜〜っ!やっとかよ…。」
「流石に…こうも続くと疲れるね…。」
シノが地に降り立ち、そのままその場に二人で座り込む。束の間の休息。まだ自分達には、リナを見つけるという大仕事が待っているのだ。
「…ノア…。どうしよう…!」
「え…?ラリア?」
安堵の息を吐こうとした直前、ラリアが涙目で訴えかけてきた。一体どうしたと言うのか。
「この気配…。あいつに集中してて気づかなかった…!居る、この街に…。レベル十に匹敵する闇影が…!」
「はっ!?」
「どういう事?何でそんな奴が…。」
ノアとまだ共有状態を解除していないシノにも、ラリアの言葉が届く。たった今倒した敵でさえ、精々七か八辺りだろう。連戦が続いた中、これ以上の戦闘…ましてや最高レベルの敵を相手にするのは危険と言えた。
「…もしかして…。」
「…ラリア?心当たりでもあるのか?」
「……。」
ラリアは何も答えない。ただでさえ小さいその肩が、背丈が、更に縮んだ様な錯覚まで覚える。だが、突然ハッと涙目のまま顔を上げ、途端焦りの色を露わにした。
「不味いわ…多分、その闇影の傍に…。」
その続きを聞いたノアは、鈍器よりも固い何かで頭を思い切り殴られたのかと思うくらい脳を揺さぶられた。
「リナが居る。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます