3章 第3話

響き渡る怒声。悲鳴。そして段々と大きくなる、闇影特有の耳障りな奇声。

「…!あそこよ!」

ラリアが指さした方向を見遣ると、そこには刀の様な黒い何かを腰に提げている“敵”が佇んでいた。一歩、また一歩とゆっくり歩む影。とその時、それが手にしている刀と、前方の地面が直線上に真っ赤に染まった。より正確に言うなら、ノアの先見がそう見せたのだ。

「不味いっ!シノ!アイツの目の前に壁を作れ!」

「オッケーイ。」

ノアの特異属性を理解している彼は、その言葉で状況を瞬時に察し、即座に魔力を練り上げる。

「はぁっ!」

「イギィッ!」

鉄の絶壁が形成されるのと、闇影が刀を抜き放ち大上段に斬り下ろしたのはほぼ同時だった。正に間一髪と呼ぶに相応しい。

刃から発せられた巨大な衝撃波が、地面の真ん中を斬り裂き、深い溝を作り出していく。そのままシノの壁まで到達し、表面が真っ二つに割れた。しかし紙一重の差で守りきり、両者はほぼ相殺された形で消滅する。

「何だよあの威力…。」

いくら先見で攻撃を予測していたノアでも、困惑せざるを得ない。もしあと一秒でも遅れていたら、先を走る市民に甚大な被害が及んでいた事は必至。シノの言葉に従っていなければ、恐ろしいミスを犯していた所だったのだ。

「こりゃやばいね〜…。絶対に近接戦は止めた方が良い。あの技は避けきれないよ。遠距離で攻撃展開、ノア君は先見で動きの予測をお願い。ラリアちゃん…は居るよね?君は相手の性質を読み取ってくれるかな?」

「分かったわ。…って、伝えて。」

言われた通り、ノアはラリアの言葉をシノに告げる。星霊は多少の思念なら読み取れる為、何時もは専ら彼女にその役を任せていた。

「ラリア、お前の属性借りるぞ。」

そう言ってノアは得物に魔力を込め、銃剣へと変化させる。敢えて完全な射撃武器にしなかったのは、ただ単純に自身の波属性と相性が悪いからである。

「あいつ、僕達にまだ気付いてないみたいだね。奇襲を仕掛けたい所だけど…。」

小首を傾げた様子ながらも、標的は未だ市民。悠長に作戦を練っている時間はない。

「ノア君、僕と共有して。今回はその方が危険が少ないかもしれない。」

「…分かった。それじゃあ、終わったらすぐに仕掛けるぞ。」

そしてノアは、自身の能力を発現させた。何時もならシェアしないのだが、今回はシノの能力、メンタルハックは相性が悪いかもしれない。何せあれは侵食するのに時間を要する。

「読み取ったわ。あいつの性質は斬撃。兎に角目の前の対象を斬ろうとする。さっきの衝撃波は、コアの記憶保有者が持っていた魔術らしいわね。妙にそれだけ色濃く残ってる。」

「成程…。なら、やっぱり近接戦は無謀だな…ん?」

その時、闇影の顔がふとこちらを向いた。一拍置いて、自身らの周りの空間が赤に染まる。

「やべぇ!」

左に回避。そう無意識に考えただけで、シノも同じ動きをする。思考までをも共有しているからこそ出来る芸当だ。

「気付かれたか…。仕方ない、迎撃するよ。」

「ああ!」

そうして二人はそれぞれ、銃剣とボウガンの標準を敵へと合わせる。

パンッ!と、ノアが放った銃弾の音が、今日四度目の戦闘の幕開けを告げた…。

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