3章 第2話

「たくっ、あいつ何処行ったんだよ!」

「まださほど遠くには行ってないと思うけど…。」

時は少し遡り、リナがまだルウと対面する前の事。三人は街中を奔走していた。勿論泣きながら走り去ってしまった、もう一人の仲間を探す為である。

「…!ノア、闇影よ!」

ラリアの呼び掛けに、ノアは神経を集中させ、屋根の上にいる敵の気配を察知した。

「ああああもう、うぜぇ!」

それと同時。抜き放った剣にラリアから借りている能力、オーラを宿した。炎の気を纏ったそれに魔力を乗せ、横薙ぎに一閃する。

「ギエエェッ!」

為す術もなく相手は一刀両断され、消滅した。

「きゃああっ!」

そこまで認識して、やっと闇影が居たという事実を知った市民は悲鳴をあげ、逃げ惑う。三人は人の波に攫われない様に努め、その場に踏み留まった。

「ひゅ〜。ノア君やるじゃん。でも、混乱は極力起こさない様にね。」

「ちっ…。分かったよ。でも、早く見つけないと…。」

ラリアにも、シノにもノアが焦っている事は十分すぎる位伝わっている。そして、普段の冷静さを欠いている事も。何時もなら絶対にしない、市民への配慮という初歩的なミスを犯す程に。

「…?何かおかしい。」

シノの言葉に首を傾げるが、一拍遅れてノアもその意味を理解する。今市民が逃れようと目指している方角から、こちら側に向かってくる人波が押し寄せているのだ。

「あっちからも闇影の気配がする!」

「何でこんな時に限って…っ!」

明らかな異常事態。ここまで一斉に動き始めるものなのだろうか。これでは、まるで誰かが操っているかの様だ。

「やっぱり、闇影をかな?何となくだけど、気配がするね。早く片付けないと犠牲者が出るよ。リナちゃんの事は一旦置いとこう。あの子も一応、“仲間”なんだからさ。」

「…っ。」

彼の言いたい事は分かる。リナもれっきとした戦闘員。過保護になって本来守るべき対象を見誤ってはならない。つまりはそういう事だ。

「分かった…。」

逆らえなかった。どちらを優先するべきか、客観的に見ても一目瞭然。それにリナは、少々キレやすいとは言え白き鷹ブランファルケの一員なのだ。ここで彼女の安否を不安がるのは、仲間として…対等な存在として認めていない事になるのではないか。そんな邪推が浮かんでくる。

「兎に角、あっちに行きましょう。この状況だと、飛行魔道具ウィンフライを使った方が良さそうね。」

「あ…。あのさ、俺…全部壊しちまって、手元にないんだけど…。」

「…?何の話?」

ラリアの姿が見えないシノは、ノアの言っている意味が分からない。それをついつい忘れてしまい、今の様に聞こえている前提で話してしまう事もしばしばあった。

「あ、えっと…ウィンフライで移動した方が良いって話なんだけど、俺のは壊れちまってて…。」

「ああ、その事か…。リナちゃんの話を聞く限り、壊れていない方が驚くよ。と思って、はい、新しいの申請しておいたから、これ使って。」

そう言って手渡された、片手で掴める程のひし形を象った石と、それを取り巻く装飾。淡く緑色の光を放つそれは、傷一つなく真新しい。

「まじか…サンキュ。助かった。」

「これで問題ないわね。早く行きましょう。」

ラリアの言葉に、「行こう」とだけ呟いたノアは、ウィンフライの魔力を自身とリンクさせて解放する。すると石は自然とノアの背後へと移動し、身体が浮き上がった。

「さっさと倒して、あいつを見つける!」

先程も思ったが、何か嫌な予感がする。心がざわついて仕方ない。その不快感を感じながら、ノアは二人と共に闇影を倒すべく空を翔けた。

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