2章 第14話

一方その頃、片手の平程しかない身長のラリアを連れながら、リナは憤っていた。

「もー有り得なーい!十分そこらなら兎も角、一時間よ!?一時間!勝手に待ち合わせ決めて勝手に別行動取った癖に!」

そう叫びながら、午前中のやり取りを思い出す。

二人…いや三人が此処、シネマに着いたのは十時前後の事だ。当然、リナはそれまで共にノアを探すつもりでいた。しかし、やっと息を吐けたのもそこそこに、いきなりシノが単独行動を願い出たのだ。…明らかにお願いというより、限りなく押し付けに近いものだったが。

「しかも!ぜんっぜんノアの情報見つからないし!本当に此処に居るんでしょーね?」

「ノアと契約している星霊の私を疑うの?居るに決まってるじゃない!」

「なら何で正確な位置は分かんないのよーっ!」

そこまで言い合った所で、意図せず声が大音量となってしまった事に気付き、ハッと口を手で押さえる。静かに周りを見渡すと、皆一様に白い視線を向けてきていた。それもそうだ。ラリアの姿は一般人…より的確に言うならば、深度一から二までの特殊能力所持者イレギュラー以外には視えないのだから。

「…例えばの話。遠く離れた所から任意の方向へボールを飛ばすのは簡単でも、近い場所から左に一ルリシル投げろって言われても出来ないでしょ?それと同じ事よ。」

バツの悪そうな顔をしながら、然れどその原因も話題も口にする事なく、リナの愚痴に返答する。

「むぅ…。でもさぁ…。」

努めて小声を心掛け、尚も頬を膨らませるリナ。ピンク色の、少し外跳ね気味のセミロングヘアーが慌ただしく揺れている。いちいちオーバーリアクションなのが目立つ彼女は、例え声を抑えていたとしてもあまり…いや、全くと言って良い程意味が無い。そんな姿をジト目で見つめながら、ラリアはハァッと一つ息を吐いた。

「全く…。何でこうも上手くいかないかなぁ…。」

「ホントよ!見つけ出したらシノもノアも一発ひっ叩いてやるんだから!」

寂しそうに呟くラリアの言葉を、二人を探し出せないこの現状の事だと捉えたリナは息巻いて返事をする。

…今のは、そういう意味じゃ無かったんだけど…。

そんな心の声は、ピンク髪を揺らして前を歩くリナには届かない。本当なら誰かに明かしてしまいたかった。そして共に、彼等を助けて貰いたかった。しかし、彼女ではダメだ。また、そんな事が許される筈もない。ラリアは、リナにバレなかった安堵と、伝わらなかったやるせなさの二つの相反する気持ちを抱く。何とも複雑な感情を覚えながらも、宙に浮きながら目を閉じ、気配に集中した。無駄だと思いながら、もしかしたら見つかるかもしれない期待を込めて。

「…あれ?」

「ん?どうかした?」

胸にとぐろ巻く、独特の不快感。あわだつ肌。この世の全てを否定するかの様な、張り裂けそうな思念。そして…追い詰められた獣の如き凶暴性。

「…!リナ、近くに闇影が…っ!」

そう叫んだ時には、既に彼女は得物を抜いて屋根の上を見上げていた。白銀に輝くレイピアの剣先を、視界に入る影に向ける。

「気を付けて、多分だけどそいつ、水系統の攻撃してくるかも。」

「うげっ…。よりにもよって私の苦手なタイプとか、狙ってるとしか思えないんだけど。」

リナの能力は燃焼。その名の通り炎を操る力だ。ノアよりも魔術の腕は上とは言え、焼け石に水だろう。変化属性は、あくまで既に存在しているものの形を変える性質しか持っていない。そして奇しくも、ラリアの所持属性もリナと同じ、変化属性だった。

「キシシシシ!」

人形の様な姿のそれが、屋根から地面へと飛び降りる。真正面から対峙する事となった両者は、一歩も退かない。

「ラリア、あんたの能力で援護して。」

「言われなくてもっ!」

敵を睨みつけるリナのレイピアが、淡く黄色に輝く。それとほぼ同時に、二つの影は真っ直ぐぶつかり合った。

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