2章 第9話
「理性のない感情は、ただの狂気だよ。理解は出来ても操り方が解らない。そんなの、糸のないマリオネットと一緒。でも…今回ばかりはそれに感謝するべき…なのかな。」
柔らかくも嘲りを含んだ笑い。もしも此処に居るのがノアでなければ、本当の意に気付かなかったかもしれない、ほんの少しの差。「キイ…キイイイッ!」
「おっと…。危ないなぁ。少し位は待てないの?」
怒涛の連撃を繰り出されても、シノは華麗に避け、撃ち落とし、そんな中でも挑発し続ける。
…これ、もう普通に攻めれば良くないか…?だって槍捌きが蛇を完封してるし。
そんな心の声は、秒とかからず否定される事となる。
「…っ…。」
「シノ…。」
顔は変わらず笑っているが、よく観察するとその表情には焦りが垣間見える。こめかみに伝う一つの滴。何時もより微妙に固い口元。彼も、無理をしているのだ。必死に敵のスピードに喰いついて、自分と同じ様に機を伺っている。
そう、ノアもまだ、闇影の隙をつこうと剣を構えたままだった。属性・先見を使う事は既に諦めている。この敵は、その度蛇を自身の一部から形成している為、動きを示す赤が視えない。又、その道筋も顕現してからのみ視る事が出来る。こうも速いと流石にお手上げだ。今になって、盲点すぎる自属性の弱点に初めて気付けた。
「キャハッ!」
シノがほんの半歩下がった瞬間、調子を取り戻した闇影は、次から次へと彼の急所を狙ってくる。シノの瞼が僅かに歪む。やや劣勢となる攻防を続けていると、何故かやがて勝ち誇った様な笑みを浮かべてみせた。
「…はぁ、君にはがっかりだよ。」
「…!!」
それはほんの刹那の隙。動きが止まった瞬間を、二人が見逃す筈はなかった。即座に青色のコードを伸ばし、闇影に繋ぐシノ。と同時、全ての蛇が制止する。一拍遅れて、十二リルは離れた場所から間合いを詰めたノアが、剣を一閃。これがトドメと、ノアは胸を突き刺し、シノは首元を薙いだ。
「…ア…ギ…。」
そして闇影はそのまま身を傾かせ…地に倒れ伏す前に消滅した。
「…はぁ、やっと終わったあ〜。」
「ああ。所でシノ?」
ん?と呑気に首を傾げてみせるその人物を、ノアは思い切り睨み付ける。
「やっっっぱり勘じゃねぇじゃんか!大方、あの時には既に
「あ、やっぱりバレた?はは、まあ細かい事は良いじゃない。」
彼の能力、精神操作は、相手の精神に忍び込み、その支配権を乗っ取るというものだ。偶然なのか何なのか、特異属性・魅了と通ずる力を発揮する。勿論、その二つの相性は抜群。
「闇影のコアの記憶を読み取り、同時に感情がある事を知った。その急所を的確に突いて揺さぶり、結果暴走状態まで持ち込んだ…。まあ、心の隙が出来れば出来る程、お前の能力は光るし、記憶も掘り起こせる。さっきのがっかりってセリフも、コアが持ってた一番痛い弱点だったんだろ?お前の作戦は確かに理にかなってる。…だが。」
飄々としているシノをやや見上げる形になりながらも、ノアはずいっと顔を近付ける。
「一人で片そうとして無茶しすぎ。ほらここ、怪我してんじゃん。」
シノの左肩を指さした途端、バツが悪そうに患部を手で隠す。よく見ると、服に少し血が滲んでいた。
「お前なりの気遣いなんだろうけどさ、まずは自分の身体守れてこそ、だろ?」
「…君には言われたくないなあ。」
苦笑いを浮かべながら、それでもノアの言葉を受け入れてくれたのはよく分かった。それならばもう言う事はないと、ノアは口を閉ざす。
「…周り、結構悲惨な状況だね…。」
「ん?…あ。」
シノに言われてやっと気付いた、その凄惨さ。売り物は盛大に飛び散り砕け散り、壁は激しく損傷。疎らに瓦礫まで積み重なっている。これはあれだ、役所の人間が来る前に逃げた方が良いやつだ。
「シノ。俺、ちょっと用事を思い出したんだが。」
「奇遇だね。僕もだよ。」
二人で冷や汗を浮かべながら見つめ合い、ほぼ同時に走りさろうとした。…が、間に合う事はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます