2章 第7話

「キャヒッ!」

笑いとも叫びとも取れる耳障りな声を奏でながら、敵はこちらに複数のを伸ばしてきた。二人はそれを左右に跳んで躱す。

「っと、危ねぇな!」

着地と同時に腰の剣を抜き放つ。既に魔力が込められていたそれから、衝撃波が一つ飛んだ。更に追い討ちでもう一つ形成し、闇影に二連の刃が襲いかかる。

「キヒャッ!キシシシシッ!」

しかし、闇影は一つを避け、もう一つを文字通り

「…は!?」

そして何やら黒い瘴気を蛇に纏わせ…こちらに

「ちょ、聞いてねえぇ!」

ノアは必死に、自身の魔力を次々に刃へと形成させ、全てを相殺する。単体の威力はそこまでではないものの、集中砲火を浴びれば必ず命が終わると、そう誰もが理解出来る光景。これにはノアだけでなく、流石のシノも焦った様だ。

「…推定レベルを引き上げなきゃね。こいつ、三なんて生温い個体じゃない。」

彼の言う通りだ。理由は不明だが、きっと目の前の闇影は、今まで本気を出していなかったのだろう。だから判断を誤った。もし本来依頼を請け負うはずだった黒狩りが多忙を極めていなかったら、被害を被っていたかもしれない。

「キヒヒヒッ!」

そんな自分達を嘲笑うかの様に、無数の蛇を乱れ撃つ闇影。しかし先程の攻撃を解明しない事には、下手な一手は打てない。

「…あ、そう言えばだけど、ちょっと気になる事があってさ。試させてくれないかな?」

「へ?あ、ああ…別に良いけど……無理はすんなよ?」

平気平気、と呑気に口にしながら、シノはボウガンを再度構える。

「…喰らえ。」

そうして今日一番の、腹の底から焦りの鼓動が鳴る程の冷たい声で言い放つ。と同時、セットされた五本の矢が、シノの指の動きに合わせて続け様胴体から離れた。直線軌道を描いたそれは、真っ直ぐ闇影の身体へと吸い込まれて行った。

「…ギヒッ!?」

最初の二本は蛇で叩き落とし、次の二本は身体を匍匐ほふくするかの如く、体勢を低くして躱す。しかし最後の一本は対処しきれず、そのまま足…と言って良いのかは分からないが、下半身…人間で言う右太もも辺りに命中した。

「あれ、なんか当たった。」

何とも間抜けな声とセリフだが、先程の衝撃波は吸い込まれたにも関わらず、今放った矢は当たったのだ。稚拙な言葉になるのも仕方ないだろう。

「うーん、やっぱり僕の予想はハズレではないの…かなっ!」

そう言いながら、シノは創成魔術で銃を創り上げ、魔力で出来た弾丸を複数発砲する。

「キャハハッ!」

するとどうした事か、先程の衝撃波の如く弾丸を喰らった闇影は、無数に分離した魔弾をこちらに返してきた。

「っと、ノア君気を付けてね〜。」

それを予測していたのか、シノは慌てる事無く冷静に、魔力の盾を創成し、それを防ぐ。丁度その真後ろに自分が立っている形だ。もし少しでも位置関係がズレていたら、今頃ノアは穴ぼこだらけになっていただろう。

「おい…シ〜ノ〜?」

「あはは、顔が怖いよ?ノア君。」

「んな事どうでも良いわ!それより俺を殺す気か!」

「大丈夫大丈夫、大体予想はしてたしね。」

彼の間の抜けた声に、一気に脱力感が全身を襲う。だが、彼の推理を漸く理解出来たノアは、気合いで気持ちを入れ替えた。

「つまり…あいつは魔力を喰らってそれを小さく分解し、相手に返す能力を持っている…という事か。」

「そうそう。でも物理的な力はらしいね。……ノア君、一応聞くけど、今剣以外に武器は?」

「残念だが持ってない。ラリアが居ないんじゃ変化もさせられないしな…。」

ラリアと契約しているノアは、彼女の属性も能力も一通り使える事が出来る。だが、それは二人が近くに居る時だけだ。先程の会話から察するに、どうやらシノと共に来ているらしいが、今は別行動を取っているのだろう。

「うーん…だよねぇ。創成魔術で創り出した武器って、魔力を材料としているから反射されちゃうし…。」

「なら、答えは単純明快。…シノ、暫くの間あいつを惹き付けてくれるか?」

一瞬怪訝な顔をしたシノだが、瞬時にその意図を理解したのか、今度は悪戯な笑みを浮かべる。

「オッケー。じゃあ、任せたよノア君。」

そしてシノは、会話のない作戦に応えるべく動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る