2章 第6話

「まずは被害者に聞き込みかねぇ…。」

と言っても、この手にある書類に書かれた内容位しか出てこないと思うが。依頼する程なのだから、被害者への事前調査は入念にしている筈だ。それでも、その闇影を追うには、地道にやるしかない。

「…ん?」

紙切れと睨めっこしていたノアだが、何やら普段の喧騒とは少し違った類いの騒がしさに気付く。皆一様に隣の人間と話している。そしてその断片がノアの耳に届いた。

「…また闇影…。」

「……が戦って…。」

「五番通りの…。」

それらのパーツを頭の中で組み立て、一つの結論を導き出す。同時に、ノアは走り出した。この数日間で、完治とはいかないまでも殆ど塞がった背中の傷。まだ多少は痛むが、なんの問題もない。団長に感謝しながら、ひたすら足を動かし現場に向かう。

今の今まで居た一番通りを抜け、飲食店が並ぶ二番通り。市街地となる三番通り、四番通り…。どんどん過ぎていくと、やがて五番通りに行き着いた。それと比例して、人の出入りもなくなっている。

「…!この音!」

キンッ!と金属が打ち合う音。獣の様な咆哮。誰かが闇影と戦っている事を証明する音が生々しく聞こえてきた。

「くっそ!」

誰だ、誰が戦っている…?

黒狩りか、無狩りか…。それとも、まさか一般市民なのではないか。そんな最悪な想像まで勝手に沸き起こってくる。

…考えるのは後だ。今は、一秒でも早く着かないと…!

そう思考を無理矢理打ち切り、ノアは全力で駆けた。そうこうしている内に見えてくる二つのシルエット。その正体を認識した途端、思わず足が止まる。

「…へ?」

「…ん?…あ、ノアくーん!なんだよもう、こんなすぐ見つかるなら一緒に行動してれば良かった。」

…出た。何でこうもタイミング良く現れるのか。いや、そもそも何で此処に立っているのか。

ノアは溜息をし、その人物に返答する。

「いや、まずこの状況を説明しろよ。…シノ。」

そう。目の前に居たのはつい先程思い描いた人物。シノ・トリガーその人だった。

「あー、数日前ラリアちゃんが戻ってきたらしくてね〜。何とか大雑把な現在位置は確認出来たってわ、けっ!」

語尾に力を入れ、お得意の槍捌きを披露する。刃が敵の身体を掠る。しかし闇影は全く動じない。

「…うーん、ダメだねこりゃ。まるで蛇女ラミアみたいな見た目だけど、どうやら背中から出す蛇の形をした影で遠隔攻撃するのが得意らしい。近接戦に持ち込もうとしたけど…今回はこっちかな。」

そう言いながら彼は、少し…本当に一瞬、寂しそうな顔をしながら、見事な装飾がされたボウガンを懐から出す。時間にして僅か二秒に満たない中、シノは闇影にボウガンの標準を合わせた。既にあの憂いた色はなりを潜めている。

「さぁ、ノア君も手伝ってね〜。早く武器を…って、ラリアちゃんが居ないか…。と言うか、怪我してるんだっけ?」

「いやおい、俺を探しに来た癖に俺の怪我の存在忘れてどうすんだよ。」

「まあまあ、それより…来るよ。」

今までのにこやかな笑みから一転、目を鋭く尖らせる。辺りに満ちる、彼の射抜く様な気。それを皮切りに、場のモードが切り替わる。先に第二ラウンドを告げたのは…闇影だった。

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