2章 第5話
それから更に数日後。ノアの目の前には、あのジュリナが立っていた。それも分厚い書類を持って。
「えーっと、今なんて?」
「だから、最近ここら辺を騒がしてる闇影を倒してきてって言ってるの。黒狩りにも既に依頼済みらしいんだけど…。なかなか人手を割けないらしくて。」
いやいや、幾ら一般人でも白と黒の関係性位はよく知っているはずだ。一言で言えば犬猿の仲。別の職で言い表すならば、白狩りは公務員で黒狩りは民間業。勿論手当も国からの援助も桁違い。黒狩りはレベル5までの闇影しか討伐許可が降りない為、それに対する不満も手伝っているのだろう。
「いやでも…。」
「このままじゃ無狩りに頼まれちゃうよ?」
無狩り…。資格を剥奪、若しくは持っていない無免許の影狩り。流石に彼等が絡んでくるとなると、見過ごす訳にはいかない。本来は正式な申請書と審査が必要なのだが、そうも言っていられないらしい。
「…分かった。因みに依頼主は?」
「…ジョネス家の当主直系の娘、としか書いてないわね。取り敢えず、この書類は渡しておくから、お願いね。んじゃ。」
「…へ?あ、おい!」
なんという事だ。渡すだけ渡して、後は全て任せたと言わんばかりに帰っていってしまった。
「…んああもう!やりゃ良いんだろやりゃ!」
半ばやけくその心境で書類を見つめる。被害数四件。推定レベル三。蛇の様なものを操る個体…。
「被害四件のうち、三件は軽傷ながら軽い食中毒の時の様な症状に侵され、一件は激しい衰弱が見られた…。毒の強さはランダムって事か…?」
いまいち敵の特徴が掴みにくい。残りの書類にも目を通すが、それらしい情報はそれだけだった。だが、狙われた被害者全員が男で、女性トラブルが日頃から非常に多いという共通点が見られる。
「…そんなやつの被害者である女性の記憶かな。この闇影のコアは。」
しかしどうすれば良いだろう。当たり前だが自分はタラシではない。しかしこの闇影はそんな人種の前にしか姿を現さないらしい。
「こういう時こそ、あいつが居ればなあ…。」
あいつ。そう呟きながら、ノアは同僚のとある男を思い浮かべる。シノ…。癖毛故に少しウェーブがかかっている、色素の薄い青髪。まるで海を見つめているかの様な深い瞳。高身長、童顔ながら整っているルックスの良さもさながら、一見柔らかい物腰と優しげな雰囲気に、数多くの女性を虜にしてきた。正に魔性の男。まあ、それも仕方ない事なのかもしれないが…。
「って、言ってても始まらないか…。まずは聞き込みからだな。」
今日はルウも休日なのだが、丁度先程外出していったばかりだ。置き手紙でも書けば問題ないだろうと、ペンを取りメモ帳を探す。すると、とある棚のひとつにタロットの様な頑丈なカードが入っていた。特に何も書いていなかった為、それにメモをしてテーブルの上に乗せておく。
「さて、行くかねぇ…。」
凝り固まった体を解すかの如く伸びをする。そしてコートを羽織り、これまでよりはるかに軽い足取りで、ノアは玄関へと向かった。端にある下駄箱から自身の靴を取り出す。
「…勝手知ったる他人の家って奴かな。」
苦笑を零しながら履き終えると、ジュリナから渡された書類をお供に外へと繰り出す。ルウから渡された合鍵でしっかりとロックし、それを確かめた後、少し肌寒い気温の中を歩き始めた。
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