2章 第4話
「なぁ、何でだよ…っ!」
「……。」
此処は…何処だ…?
この感覚、この空間。何か既視感を覚える。そう考えたノアははたと気付いた。
「何で、お前が…!」
「……。」
これは、夢だ。ルウと初めて出会った時にも見ていた夢の狭間。
「何とか言えよ!」
「…最初から、僕達は相容れない存在。ただそれだけの事だよ。」
…ルウ…?それにあれは…俺、か…?
聞こえるのは紛れもない、二人の声。悲痛な怒声をあげる自分と感情を殺した彼の声だ。
「ふざけんな…っ!」
「だから言ったでしょ。僕には…これしかないんだから。」
最後に聞いたセリフは、何やら憂いを帯びていて、無性に悲しげに響いた。
「…ノア。」
「う…ん…。」
「ノア、起きて。もう夕飯出来ちゃったんだけど。」
「…あれ、ルウ…?夕飯…。」
ゆっくりと目を開けると、いつの間にか帰ってきていたルウが立っていた。夕飯、と言うワードに鼻が無意識にスンスンと動く。途端、香ばしい香りが鼻腔を擽った。
「…あれ…。」
今の夢は何だったのだろうか。そう思考を巡らせようとすると、何故か内容がポトリ、またポトリと自分の手から滴り落ちていく。どんな会話を…どんな夢を…。いくら考えても思い出せない。
「……ノア?」
「あ、いや、悪い何でもない。」
言い様のない不信感と不安を覚えながらも、頭を振り思考を切り替える。
「…そ。じゃあ、夕飯食べよっか。」
ルウの視線を辿っていくと、テーブルの上にはサラダ、スープ、パンにハンバーグ…レパートリー豊富なメニューが並べられていた。そのクオリティの高さに、思わず瞠目する。
…こいつ、本当に男か?
そんな失礼極まりない疑問すら抱いてしまう程だ。
「なんか、今凄く失礼な事思われた気がする。」
「え?い、いや?ははは…気の所為だって。そ、それより早く食べようぜ!」
なんでこいつはこんなにも察しが良いんだと、焦りながら椅子に座るノアに対して、疑念に溢れた目を送るルウ。だがやがて諦めたのか、ひとつため息を吐きながら漸く彼も座る。
「頂きます。」
ほぼ二人同時に手を合わせ、箸を取る。
「…んまっ!」
ハンバーグの肉汁と、ソースの絶妙なバランス。焼きたてほやほやの食感。これはやばい、美味い。
ノアが目をキラキラと輝かせると、ルウは首を傾げた。
「あれ、そう言えば僕の料理食べるの初めてだっけ?」
「ん?ああ。すぐ寝たり、ジュリナ…先生に叩き起されたりしてな。」
「…ふっ。先生って言い慣れてないんだ?」
少し挑戦的な眼差しで、笑いを零した。そう言われると、つい意固地になってしまう。
「そういうんじゃねぇし!ただ呼び方が定まってないだけで…。」
「つまりはやっぱり言い慣れてないって事だよねそれ。」
「う…。」
幾ら何でも論破されるの早すぎやしないか自分。ノアは心の中で自分自身にツッコんだ。
「まあ、どう見ても先生って感じには見えないし、その気持ちは良くわかるよ。」
「だよな!あいつがジョネス学園の保険医だなんて、未だに信じられていない自分もいるし。」
「でも、腕は確かだよ。テキトーな性格だけど、やる時はやるし。」
その事は身をもって知っている。あの魔力量と威力、只者ではない。
「…戦闘もだけど、他についてもだよ。まあ、何とは言わないけど…。」
「まじか。というか、教えろよ〜。」
「…。もうこの話はお終い。早く食べよ。」
その後は結局答えて貰えず、諦めてルウの手料理に舌鼓を打った。
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