2章 第2話
「とか何とか…。」
「ふぅーん…。」
しかし、中々的を射てると思う。それならば諸々説明がつくからだ。
「……何で、
「え?」
そう問いかけているにも関わらず、ルウはこちらを見ようとしない。長めの銀髪に覆われたその顔を伺う事も出来なかった。
「…
「あ、ああ…。でも、そんな時もあるだろ?」
…喋るトーンも普通で、声色も落ち着いているのに、何故こんなに悲痛な叫びに聞こえるんだろうか。
「本当にそうかな?本当に、偶然なのかな。もしかしたら近くに
「…おいおい、どうしたんだよ?少なくとも学園内には居ないだろ。能力も特異属性も、試験と同時に審査されるんだ。此処に
「…そうかもね。まぁ、抜け道があるのかもしれないけど。」
まるで断罪を待つ罪人の様に、ノアには見えた。
まさか…。そんな最悪の予想が頭に過ぎる。いやでもまさか、そんな筈はない。彼はれっきとした生徒なのだ。ルウが
「……君は、彼等をどう思う?やっぱり、闇影を呼び寄せる、害悪だって排除する?」
やがて、ルウがそう重い口を開いた。本当にどうしたと言うのだろうか。明らかに様子のおかしい彼に戸惑いを隠せない。
「…俺は、
それでも、自分の意思を伝えなければならない。一点の曇りもない本心を。何故か、そうしなければいけない気がした。しかしルウは胡散臭そうに此方を見遣るだけ。
「…なら、何で影狩りになったのさ。君達は彼等を追放処分、若しくは排除するのも仕事でしょ。」
「…実は、な。余り知られてないが、ひとえに影狩り…白狩りと言っても一枚岩じゃないんだ。俺が所属しているのは、対闇影に特化した戦闘部隊。他にも色々あって、中には対立してる部署もある。」
「……。」
自分と目を合わせてくれたルウに、少しの嬉しさを感じながら、静かにノアは話し続ける。
「そんりゃあもうギッスギス。責任の擦り付け合いばっか。それも俺が志願した理由の一つなんだが…今は良いや。兎に角、そんな中、唯一光り輝いていたのが、団長だったんだ。あ、団長って言っても女な、女。」
「…女性?」
団長と言うワードから勝手に男性という先入観を抱くのは当然だ。だからルウが驚くのも無理はない。そして何より、今日初めて彼が素顔を見せてくれた。そんな気がしたノアは、更に話を進める。
「そ。だが、女だけど、誰よりも強い。戦いの腕だけじゃなく、心もな。そんな彼女に、ある日を境に武術を教えて貰える事になったんだ。失敗すれば訓練を延長されるし、少しでも危険な扱いをすれば鋭く叱責される。けど、上手くいった時、成長した時…。団長は微笑みながら褒めるんだ。どんな些細な事でもだ。決して出来て当たり前だと言わない。態度を示さない。…凄いと思わないか?」
ルウは、少しばかり沈黙した後、静かに一つ頷いた。
「人は、自分が出来る事は他人も出来て当たり前だと無意識に思いがちだからね…。その女性は、とても出来た人格者だと思うよ。」
「ああ。目上の人間に対しても、下に対しても、全く態度を曲げない。自分の正義を貫ける、そんな人。そして、そんな団長だけが、白狩りの中で
「え…。」
「そりゃ最初は団長も苦労してたよ。誰一人として賛同しなかったし、異質な人間として忌避されていた。彼女が所属するチームに行った人間は不幸になるって酷い噂まであった。けど、俺は団長の強さだけでなく、その思想にも共感したんだ。だから、俺は彼女の下につきたいと思った。そして公にそれを公表すると、皮肉なもんで、その一人が現れると一人、また一人と共感者が増えていった。所謂、誰かが発言した後なら怖くないってやつだよ。皆怖かったんだ。自分だけ意見が違うのがな。」
「……。」
ルウは何も喋らない。先程の様に俯いてはいるが、抱いている感情は全く別のものだと直感的にノアは悟る。
「その時既に彼女は白狩りの一団長だったが、それを皮切りに部隊はどんどん再編成された。今やメンバーは
「……っ…。」
ほんの微かに、息が詰まった様な声が聞こえた。ルウは両手を握りしめ、何かに耐えている。
「僕は…。」
「話が長くなっちまったけど、俺が白狩りを目指したのは、それがひとつの大きな理由。
「……僕は……。僕が…っ」
次の単語を口にする寸前、目の前の扉がバタンと大きく開かれた。
「はああああっ…。やっと解放された〜!私何も悪くないのに怒られるんだもの、嫌になっちゃう。」
「…ジュリナ…先生。金銭面はどうなった?」
「あ、それなら大丈夫。全部ジョネス家が負担してくれるって!」
「お、おう…。良かったな。」
いやにテンションが高い。金銭の心配事がなくなったからだろうが、ここまでハイになれるものなのだろうか。
「あ、ルウ君。もうすぐ授業始まるからそろそろ教室向かったら?私も資料持ってこなきゃだから一旦ここ締めないとだし。ノア君は大人しくしててね。」
「はいはい、分かってるよ…。」
「じゃ、行ってくるよ。ほら、ルウ君早く!」
「…それじゃあ、ね。」
「おう、頑張ってこいよ。」
カチャリと、扉に鍵がかけられた音と共に、遠くへと追いやられた喧騒。急に、一人だけ世界に取り残された様な錯覚に陥る。
「…何もする事ないし、寝るか…。ふぁあ…。」
大きな欠伸をし、ノアは横向けでベッドに転がり込んだ。
「…何で言おうとしたの?そんなに辛いなら、止めちゃえば良いのに。」
「…僕には、今更そんな事出来ませんから。」
そんな会話を二人がしていた事などいざ知らず。
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