2章 第1話

「……。」

「えーっと…ルウさん?」

闇影との戦いを終えた翌日。ノアは保健室にきたルウの質問攻めに遭った。それもそうだ。あの光景を目の当たりにしたのだから。

昨夜の事を出来るだけ詳しく説明していくと、彼の表情はどんどん無に近くなり、仕舞いには唇を歪めたまま俯いてしまった。声をかけてもこの有様だ。

一体どうしたと言うのか。それは、彼が抱えている問題に関連する事なのか。

ノアは、その判断材料を得られる程時間を共にした訳では無い。気の利いた言葉ひとつもかけられないのがもどかしかった。

「まあまあ!こうして無事だったんだし、そんな心配しないでよ。それよりもあの修理代の方が私にとっては深刻…。はぁ…。」

「流石に個人に持たせる事はないだろ…。というか、手続き踏めば援助金受け取れるんじゃねぇの?」

「あー、うん…。」

…?何か不味いことでもあるのだろうか?

歯切れの悪い彼女の態度に、思わず首を傾げる。

「…そんな目で見ないでよ。まあ、何とかなるでしょう。」

この人は、何を本気で言っていて、何処が強がりなのか皆目見当もつかない。本当に何とかなると思っているのか、いないのか。本気で金銭に関して心配しているのか、いないのか。

その時、コンコンッとドアをノックする音が聞こえた。

「ジュリナ先生!入りますよ?」

「やばっ!君達は奥の部屋隠れてて!…はーい!今すぐ開けますね!」

ジュリナは二人のを押しやって、無理矢理部屋へと誘導させる。そう…背中を。

「グヒッ!いっって…モゴモゴ!」

いち早く察知したルウによって口が塞がれたのが幸いし、外にいる人物には声が届かなかった様だ。

そのまま部屋へと滑り込み、ベッドへと倒れ、静かに身悶える。

「…ここの扉分厚いから、少しくらいなら声出しても大丈夫だよ。」

「ぐ…ぅ…。あい、つ…かんっぜんに忘れてたな…!」

「…それにしても、随分な回復ぶりじゃない。まさかその状態で戦うなんて、普通なら出来ないよ。」

「ああ…これは、団長の…。」

大量の汗をかきながらも何とか耐え抜き、漸く少しづつ痛みが引いてきた所を見計らって体を起こす。

「…団長の特異属性オリジィエンチャントは、“守護”。その名の通り、ダメージを軽減したり、治癒速度を早めたり…怪我を肩代わりする事だって出来る。まぁ…俺の場合完全に不意打ちで発動すら出来なかったからこの有様だが、団長は殆どノーダメージだと思う。」

「ふーん…。複数人同時にシェア出来るなんて、凄いね。というか、それならその団長さんと直接連絡できるんじゃないの?」

つい先程ノアの能力について話を聞いたルウは、当然と言えば当然な疑問を投げかけた。

「と、思うだろ?だけど流石に、三百リルはキツいわ…。声も届かねぇ。」

ルウはそれを聞いて納得しかけたが、何か疑問に持つ事があったのか再び口を開く。

「じゃあさ、何でテレパシー的なものは使えなくて能力とかの共有は出来るの?」

「それは…。俺にも分からないが、ラリ…知人がこんな仮説を言ってたことがある。」

ノアはその時の会話を思い出しながら、口を開いた。


『多分ステータス自体は、お互いの身体にセーブされている状態なんじゃないかな?お互いがお互いにインプットして、そのステータスを保存する。そして、必要に応じて相手の力をロードしてる感覚なんだと思う。』

『じゃあ、距離が離れすぎてると相手の思考が届かなくなるのは?』

『ノア、思考って言うのはね、常に変動するものだよ?つまり、全てリアルタイムでこその力なの。言うならば、常に通話している状態、かな。遠くなればなる程電波も魔力も届かなくなるし、消費する量も大きくなる。特にノアは平均値位の魔力しかないんだから、届く範囲が限られるんでしょ。…多分。』

ラリアが博学に見え、内心驚きながら頷いていた所に多分と付け加えられ、ノアはズコッと身体を地面に強打しそうになった。

『お前なあ…。』

『仕方ないでしょ、あんたの能力は前例がないんだから。』

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