1章 第10話

時は少し遡り、ノア達が闇影と戦っている頃。ローエン地方にある王都クロセルスの一角に、白き鷹ブランファルケの隠れ拠点のひとつがあった。そこには一様に暗い面持ちをした面々が集結している。

その輪の中心にいるのは、ノアの幼馴染みリナ・リグセルトと、ノアの兄、レイ。二人の間には言い表せない剣呑さを孕んだ緊迫感がある。

「…まだ見つからないのか?」

「は、はい…。申し訳ありません。」

「謝っても何も変わらない。早く探し出すんだ!あの時みたいな事になっていたらどうする!」

その怒鳴り声に、リナは思わず肩を震わせる。レイはノアの話になると余裕が無くなる。それも当然と言えば当然なのだが、兎に角今の彼女にとって彼ほど恐ろしい存在はいなかった。

「君がついていながら何で守れなかったんだ!」

「…その位にしては貰えませんでしょうか。」

「ルリアス…。」

涙を浮かべながらただ叱責に耐えているリナを見かねて、金髪の人物が声を挙げた。髪はショートヘアで切り揃えられており、瞳も輝く金色。顔のパーツも整っていて、かなりの美形だ。事実、は一般女性からの人気がとてつもなく高い。

「安心して下さい、私と彼とのシェア状態は解除されていません。私の特異属性オリジィエンチャントも彼を護ってくれるでしょう。」

「だが…っ!」

「確かに貴方の心配も最もです。が、彼女だけを責めるのは止めてもらいたい。上司である私の責任でもあるのです。」

彼女は決してリナは悪くないと甘やかさない。然れど、リナだけが悪いと責めもしない。確かに此度の騒動はリナの過失が原因の一つでもある。しかし、それだけが理由かと言われれば、首を縦に振ることは出来ない。

「ノア・サジュリー自身の油断と実力不足、私の指揮のミス、そして何より、相手が失技持ちというレアな個体だったと言うアクシデント。これらが不運にも重なった結果と言えるでしょう。リナ・リグセルトだけを責めるのはどうかと、私は愚考致しますが。」

に口調ひとつ変えずに物申すルリアスの姿に瞠目する面々。流石は白き鷹ブランファルケの一派を取り纏める団長と言うべきか。

「っ…。…すまなかった、リナ。つい頭に血が上ってしまっていた様だ。やれやれ…これではいけないな。ルリアス、ありがとう。」

レイは頭を片手で覆いながら首を振り、熱を追いやろうと試みた。少し冷静になったのか、二人の目を見てそれぞれ謝罪と感謝の意を述べる。

「いえ。実の弟君が行方不明ともなれば、取り乱すのも当然ですから。」

「…所で、ラリアはまだ戻らないのか?」

その言葉に、一同は再び暗い面持ちへと変わる。

「はい…。真星霊しんせいれい様に呼び出されたまま、まだ戻ってきていません。」

「そうか…。あいつが居れば居場所が分かるかもしれないんだが…。よりにもよって、ラリアが呼び出されたその日の夜に…。」

「それにしても、である真星霊様から声がかかるなんて、ラリアって実はかなり上位の星霊なんですかね…?」

真星霊とは、この世界の意志が具現化した存在だ。光も闇も関係ない、星の意志のままこの世界を見守り、時に助け、時に手を下す、言うならば絶対的な神。そしてその真星霊が回りの星の力から創り出したのが、ラリア達星霊なのだ。星霊は深度二以下の特殊能力者イレギュラーにしか見えない。又、彼等と契約出来る者も低深度の人間だけだった。

「何時もはラリアと一緒に戦っていたのもあって、本領を発揮出来なかったのだと思います。とは言え、やはり私も…。」

「いや。さっきのは忘れて…くれだなんて、都合が良すぎるな。本当にすまない、君にあたってしまって。今は出来うる限りの最善を尽くそう。」

「は、はい…!」

微かに鼻笛を鳴らしているリナを、しかし指摘する者は誰一人としていなかった。皆彼女の心情を慮っているからだ。

その時、とてもこの場にそぐわない声が響き渡る。

「ただいまー!…あれ、どーしたの皆?そんなに暗くなって。それに、ノアは?」

その声に、メンバーは全員そちらを向く。此処に集まった面々は、全員低深度の特殊能力者イレギュラーなのだ。

「ら…ラリアあああっ!!」

「へあ!?」

きっとその声は、地震か?と思える程の揺れを巻き起こす位の大音量だったに違いない。

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