1章 第6話

「シュウゥ…。」

体を仰け反らせ、何らかの攻撃態勢に入った闇影を注意深く睨む。先見によって視える、敵の攻撃を示す赤色。それを一瞬でも見逃せば、こちらの命はない。

「…来る!横に跳べ!」

照らされたのは、敵の口と、そこから伸びる空中の道筋…放射系の何かだと瞬時に判断したノアはそう叫んだ。

「キハアアッ!」

それとほぼ同時、闇影は口から何やら超高音のオーラを吐き出す。炎とかビームとかそんなものではなく、ただただ半透明な赤色のオーラ。だが、間一髪避けたノアは、それが人肌をも一瞬で溶かすであろう代物だと察する。そしてジュリナと反対方向に退き、そのまま地面へ着陸した。

「…ぁぐ…っ…。」

しかし、必死すぎて忘れかけていたが、まだ背中の傷は治っていないのだ。勢い良く跳び退けば、その反動も身体に返ってくる。激痛に襲われるのは必然。その余りの痛みに思わずしゃがみこみ、体勢が崩れる。

「あ、ちょっとノア君!…チッ。なら、これで…どう!?」

大きな隙を作ってしまったノアに狙いを定めた闇影を認識したジュリナが、杖を大上段に振り下ろした。

「……!」

何やら耳がキーンとする一瞬の静寂。直後、取り巻いている風が全て、彼女の下僕と化した。

それは、大袈裟でも何でもなく、天災と呼ぶに相応しいものだった。

「ギ…ギィィッ!」

風圧が闇影を捉え、逃がす事無く少しづつ圧迫していく。強制的に回転動作を加えられた、人口の竜巻が両サイドに控え、そので吸い込み、身体を引き裂かんとする。正に地獄絵図。

「…はは…こりゃ、反則だろ…。」

痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がったノアは、その光景に思わず嘆息する。通りで校舎内では扱えない訳だ。この広範囲、この威力では、いくら頑丈に造られている建物であっても瞬時に崩壊してしまうだろう。事実、竜巻が立っている地面はドリルで削られた様な穴が深々と空いている。

「…中々しぶといわね。なら、これで終わりよ!」

それでも尚耐えている闇影に痺れを切らしたのか、ジュリナは再度杖を振り上げ、下ろすと同時に空気圧の塊をその上に、落とした。

「…ギ…イ…ッ!」

何とか体勢を保っていた闇影も、これには堪らずかなりのダメージを受けたようだ。そして…そのまま二つの竜巻に巻き込まれ、身を切り裂かれ、そして…消えた。

「…終わった…のか…?」

「ええ…。はあ、疲れたー!まさか私の必殺技を使う事になるなんて、予想以上に闇影って強いのね。」

杖をふところにしまい、こちらに向き直って、ジュリナは大きく伸びをする。

「お前…あんなのぶちかましといて、疲れたー!だけかよ…。どんだけ魔力量高いんだよ。」

「んー…まあ、結構高い方ではあるよ?でも、ルウ君には敵わないかな…。あの子、本当の天才だから。」

そう応じるジュリナの言葉に、妙に納得してしまった。シャドウメントの一件で、彼が天才である事は認知していたからだ。彼女よりも魔力量が多くてもおかしくは無い。

「だろうな…。てか、もしかしてあいつの方が強かったり?」

「あー…。えっとね、実は、彼そんなに身体は丈夫じゃないから、普段はあまり魔法を使わないの。たまになら大丈夫なんだけどね。」

「…そっか。」

やはり、彼にも色々抱えている問題があるのだ。これ以上は聞かないで、と口にはしないが彼女の表情が物語っていた。

「所で……っ!?」

話を変えようと口を開いた瞬間、ノアは目を剥いた。そこには、たった今倒したはずの闇影が居たからだ。その目は真っ直ぐジュリナを射抜いている。

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