第9話魔族最強の剣士
キーデル地方の田舎町、フラム。
酷い有様やった。建物が壊れとったり、兵士たちの死体が無造作に倒れとる。
おそらく魔族の仕業やろ。それも先ほどの蟷螂の魔族が言うてた魔族最強の剣士がやったと分かる。何故なら壊された建物や殺された兵士たちは剣によってそうなったんや。あからさまにちゅうより、力を誇示しとる感じやな。
「御者さん。ここから離れとったほうがええで」
「……大丈夫ですか?」
御者さんは中年のおっさんで、あたしたちを心配しとるようやった。
彼もまた軍人らしい。そうやなければここまで馬車を走らせることできひんやろ。
「大丈夫よ。私たちをなんだと思っているの?」
デリアが自信満々に答える。徐々に昔の傲慢であたしが大好きやったデリアに戻ってきているようで、なんや懐かしかった。
「……私は、あなた方ほど魔法を使えないし、大して剣も使えない。この光景を見て憤るどころか、早く立ち去りたいと思う弱い大人です」
御者さんは敬礼をした。
「どうか御武運を。それしか言えなくて情けないですが……」
あたしはにっこりと笑うて――親指を立てた。
「おおきに! あたしらに任せや!」
デリアもイレーネちゃんも、エルザも笑って応じた。
御者さんは姿が見えなくなるまで、ずっと敬礼をし続けた。
「さてと。先ほどから戦闘音が響いていますね」
イレーネちゃんの言うとおり、微かやけど、遠くのほうで魔法と剣が激突する音が聞こえとった。
エルザは「早くキールくんを助けないとね」とぐっと拳を握った。
「急ぐわよ。この音、結構苦戦しているみたいだわ」
フラムの教会の地下に、神代兵器が眠っとる。せやからあたしらは町の中心の教会へと目指した。倒れとる兵士の死体を避けつつ進む。
道中、あたしたちを邪魔する魔族は居らんかった。戦力を教会に集めとるな。
その予想は良くも悪くも的中した――
「フハハハ。やるではないか、ランドルフ!」
「けっ。楽しんでやがって。この戦闘馬鹿が!」
ランドルフは黒いマントを着た、象顔をした魔族と戦とった。
その周りで、クラウスが火の悪魔――フラム・キュイジーヌを二体出して応戦しとる。しばらく見いひん間に、二人とも成長しとるな。
「ランドルフ! クラウス! 助けに来たで!」
走りながら大声で叫ぶと、象の魔族はランドルフから離れた。
「はあ、はあ……なんだ? 休憩か?」
「違う……初対面の淑女にも自己紹介しないとな」
象の魔族はあたしたちに向かって、一礼した。
なんちゅうか象の魔族やのに細い印象や。筋肉が絞られとって、そういう風に見えるのかもしれん。
鎧姿で仕草に魔族流の優雅さを感じる。全身、真っ黒けやけどセンスの良さを滲み出しとった。
「我が名はリュートベル! 魔族四天王の一人! 魔族最強の剣士にして、世界最強の剣士である!」
剣を高々と上げて、リュートベルは自分なりの格好ええポーズを決めた。
マントが謎の風ではためいとる……
「えーと。あいつって馬鹿なの?」
誰も何も反応できひんかったけど、デリアが呆れながら言うた。
あたしも同じくらい呆れとった。
「うむむ。魔族のくせに格好いいですね」
「イレーネちゃん!? ほんまに言うとるの!?」
イレーネちゃん、しばらく会わんうちにおかしくなったんかな?
「それで、四天王のリュートベルと言ったけど、よくもまあノースに来れたね。どうやってここに?」
固まった空気の中、真面目にエルザがそう訊ねた。
「ふふふ。淑女よ。我にとっては造作もないことだ」
「答えになっていないよ。ノースは魔族の進攻を警戒しているのに――」
「その答えは――見たほうが早い。いや、見えないと言ったほうが正しいかな?」
そう言うなり、リュートベルは一瞬にして姿を消した――
「はあ!? なんちゅう超スピードなんや!?」
「違うなユーリさん。こいつはそんなんじゃねえ」
ランドルフは息を整えながら答えを言うた。
「透明化。自分だけじゃなくて、触れているもの全てを透明にできる」
「なっ――」
するとふっと姿を現すリュートベル。
「そのとおり。これで我が簡単にノースに侵入できた理由が分かったかな? 淑女よ」
「……魔族の中でも特別なのね」
エルザの言葉にリュートベルは「特別というより特殊と言うべきだろうな」と肩を竦めた。
「でもおかしいわね。透明化できるなら、ランドルフと戦っていたときにどうしてやらないの?」
「淑女よ。理由は二つある」
リュートベルは剣をランドルフに向けた。
今まさにランドルフが斬りつけようとしたタイミングやった。
「一つは我と言えども、剣に殺気を込めずに攻撃できぬ。達人であるランドルフには通用せぬよ」
「……もう一つは?」
「我の剣技が見えるのは酷だからな。大勢のギャラリーに見せたいものだ」
デリアは頭痛がするのか「こんな馬鹿が四天王なの……?」と頭を抑えた。
「なあ。キールはどこにおんねん」
話を進めようとあたしはリュートベルに訊ねる。
まあ素直に答えへんやろなと思うてたら、意外な返答をしてきた。
「教会の中だ。既に神代兵器に取り込ませてある」
「なんやって!?」
「邪魔したければするがいい。大勢の魔族がそれを阻止するがな」
そうして、ランドルフに向かい合うリュートベル。
「さあ決着をつけようか。貴様と我は七回殺し合った仲だ。はっきり言えばこのまま戦い続けたいところだが、そうもいくまい」
「お前……神代兵器のこと、どうでもいいのか?」
「ハブルなどは執心だけどな。我にとっては貴様との戦いのほうが重要だ」
「本気で言っているのか?」
「ああ。我は常に本気だ」
リュートベルはあたしたちを無視してランドルフに正対する。
「これ以上焦らすな。貴様を倒せば――ようやく何かを掴める」
「……ユーリさんたち。教会に向かってくれ」
ランドルフは腹をくくったみたいやった。
いや、リュートベルの覚悟に付き合うみたいや。
「いいの? 私たち全員でかかれば――」
「馬鹿野郎。そんな野暮なことできるか」
デリアの提案を一蹴するランドルフ。
「それに時間がねえ」
「……格好つけて。ヘルガさんを泣かせるような結末にしないでよね!」
デリアは教会に向かって走り出す。
それを追ってイレーネちゃんとエルザも向かう。
「死なんといてな、ランドルフ! クラウス、あんたは!?」
「僕はここに残ります。他の魔族が手出しできないように」
クラウスは二人の決着を見届けるようやった。
あたしは頷いて、教会に突入した。
教会内部、礼拝堂――
本来は神父が人々に説教する場所やけど、今はもう見る影はなかった。
中央にどかりと置かれた白い球体。どくどくと心臓のように鼓動しとる。
そん中には――キールが寝とった。
会わん内に背丈が大きくなっとった――いや、そないなことはどうでもええ。
「おや。リュートベルの悪い癖が出てしまいましたね」
球体の近くにはハブルが居った。その傍らには魔人ゼロも居る。
「やっぱ居ったか……」
先行した三人は扇状に離れて二人と対峙しとる。
「神代兵器……!」
「おや。ご存知でしたか。まあ当然でしょうね。知っていなければこの場に居ない」
「ハブル……交渉しても無駄やと分かっとるけど、一応訊くわ。神代兵器を使うのやめてくれるか?」
ハブルは「いやですよ」とはっきりと断った。
「まだ使っていないんですから。でも一回だけ使ったら返してあげます。まあ使ったらあなたたちも巻き込まれて死にますけどね」
ハブルは「魔人ゼロ。彼女たちの相手をしなさい」と命じた。
「発射まで時間がかかります。そうですね。十分ほど時間を稼ぎなさい」
魔人はこくんと頷いて、二刀をあたしたちに向けた――
今度は負けへんで!
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