27話
見たくなかった。
見てしまった。
咄嗟にその場を離れた。夢中で走って、結局行き着いたのはこの間、草野球をやっていた河川敷にあるグラウンド。
今から小学生たちの練習が始まるらしい。
徐々に野球チームのユニフォームを着た少年たちが集まりだして各々にキャッチボールを始めている。そのグラウンドの周りには当番の親御さんたちが準備している。
河川敷の斜面に膝を抱えて座った。
…懐かしいな
俺も最初はあんなだったのかな
少年たちは希望に満ちてきらきら輝いているように思える。
そのうちに紅白戦が始まった。
投手の少年に自分を重ねる。
あ、もう少し体重を乗せるように投げたほうがいいな
高く脚を上げるなら、体幹鍛えないと
余計なことばかり考えて、それが今の自分には楽なことを知っている。それが自分の気持ちから逃げていることも知っている。
3回ぐらいで紅白戦が終わり、次は別のチームの紅白戦へと移った。
腕の振りが弱いな、とか
さっきの少年の方が下半身の体重移動がスムーズだな、とかそんなことばかり考えて、自分がどれだけ野球しかやってこなかったのか身に染みる。
そろそろ、安達を解放しないといけない。
俺が、安達の邪魔をしているのは確かだ。どうして俺に付き合ってくれているのかさっぱりわからない。
今まで、俺が安達に心配ばかりかけてきたから、安達は俺から逃げられなくなっているだけなんだと思う。
こんなに面倒くさい性格なんて自分だって嫌だ。でも昔みたいに自分のことしか考えない、傲慢な性格なのも嫌だ。
こうやってウジウジ考えていても仕方がない。そんな性格を強く変えたいと思った。
練習が終わるまで見学して、のろのろと駅の方へと回って定食屋へと入った。野球を辞めてからもジャンクフードは避けている。身体を作るのは食事から、もう甲子園もプロの世界も遠くなってしまった。それなのに、まだ未練があるのだろうか。正直よくわからないのが本音だ。
もう、厳しい食事制限なんてしなくて良い、朝早くに起きなくても良い、自分を甘やかしても良いはずなのに、身体はそれを拒否しているかのようだ。
そういえば、安達の作る料理は栄養バランスが摂れているように思う。多分、安達はそういう温かい家庭で育ったのだろう。二人で食べるだけなのに、料理の品数も多い。
俺が野球をやる為に、共働きになったうちの家とは違う。両親には感謝している。少し、人より野球の才能があるとわかると、野球中心の生活へと合わせてくれた。中学からの私立と野球漬けの日々は家計の負担にもなっていたことだろう。甲子園に行けなかった時だって、文句も言わず労いの言葉をかけてくれた。ただ、家族としては冷めきっていたように思う。
俺とは、何もかもが違うような気がして小さく息を吐いた。
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