26話
野球を辞めて良かったこと。
朝はゆっくりと寝ていられる。二度寝から目覚めて気が付いた。
隣に安達が居ない。
今でも昔の習慣で、朝の5時前に自然と目が覚める。その時は隣で寝ていたから、安心して二度寝が出来た。居ない理由も知っている。だけど、こんなにも不安になるのはなぜだろう。その不安を拭いたくて、顔を洗う序にシャワーを浴びる。
頭の上から、熱めのお湯を浴びる。暫くすると、頭の中にかかっている靄みたいなものが次第に消えていくように、すっきりとする……筈なのに今日はなかなかうまく行かない。思考回路を停止させて、のろのろと身体を洗う。
いつもより随分時間がかかってから風呂場を出た。何かを食べようか、そう思って冷蔵庫を開けたら見事に野菜しかない。
じゃがいも、人参、玉ねぎ…カレーでも作るのか。
正直、料理なんかしたことない。小学生の頃から野球漬けの日々だったし、包丁で指先を切ったら、ボールを投げる感覚が狂うって理由で包丁も持ったことがない。全てが野球優先でそれ以上の物なんて俺には無かった。
リトルリーグで全国大会に出たときに、優学館から誘いが来た。甲子園を目指していたから、当然の様に甲子園常連校の優学館へと進学した。中学3年の時に全ⅼ国大会優勝、当然甲子園に行くもんだと思っていた。その驕った考えが駄目だったんだと今は思う。
100人を超える野球部は、下は三軍からある。高校から入ってきた奴らはたいてい三軍からのスタートで、中学でレギュラーだった奴らだって二軍からのスタートだ。一軍だって全員がベンチ入り出来るわけじゃない。その中で、1年から一軍で、1年の夏はスタンドでの応援で2年からベンチ入り。
何の努力もしてなかった訳じゃない。中学からキツイ練習に耐えて来たし、色々な誘惑も絶った。体調管理にも気を使って、真面目に練習に取り組んだ。練習についていけなくて、何人も辞めていく中で必死にしがみついた結果があれだ。
自分がもたらした結果だということは良く解っているつもりだ。俺がもう少し周りに気を使える人間であれば、あんなふうにはならなかったと思う。野球は一人では出来ないのに、俺は、俺だけの力で野球をやってるつもりだったから。
結局、昼飯序に駅の方へ行こうかと部屋を出た。夕飯にカレーの足りない材料を買うつもりで。
エントランスを出た時に、人影が見えた。
あまり他人に関心がないのでそのまま通り過ぎようとした時、聞こえた声は聞き覚えのある声で振り返ると安達と管理人さんが話をしていた。
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