第25話安達と斉藤

秋の日差しが眩しくて思わず瞳を細める。

大きく響き渡る金属バットの快音に、歓声が上がる。打球を追いかけるんじゅなくて、打った打者の姿を追う。


ブランクあんのか?

そう思わずにはいられない程、今日の安達は絶好調だ。

スリベースヒットを放った安達は、こちらへとガッツポーズを向ける。

小さく頷いて、ガッツポーズで応えた。


「今日はありがとう。本当に助かったよ」

「いやー、役にたてて良かったッス」

お礼だと言われて受け取ったビニール袋の中には、缶ビールと数本とつまみが入っていた。


数日前、管理人さんに頼まれた、商店街の草野球チームの試合。怪我で肘が上がらない安達は最初断っていたが、外野には滅多にボール飛んでこないから、それにフライはみんなでカバーするからと割と強引に試合に出ることになった。

安達は、管理人さんに色々弱い。

そりゃあ、凄く良くして貰ってるし、助かっていることも沢山あるけれど、少し、デレデレし過ぎなんじゃないかと思う。


「何、怒ってんだよ」

「怒ってねーよ」

帰り道、歩きながら顔を覗いてくる安達に理由を悟られたくなくて、足早になる。

「それより腹減った」

「あー、俺も腹減った。なんか食って帰る?」

「マンションの方が近いのに、駅まで行きたくねーよ」

「それもそうか。でも作るのも面倒くさいからピザでも取るか」

安達の提案に頷いた時だった。マンションへ向かう小道から管理人さんが顔を出した。

「お帰りー、今日大活躍だったんだってねー。商店街のみんなも凄く喜んでたよ」

管理人さんは地元出身で商店街には、同級生なんかもいて顔も広い。何かあった時は心強いけど、情報が回るのも早い。

「これ、おにぎり。応援行けたら良かったんだけど、今日無理言ってくれたお礼」

手渡されたお重を受け取る。ずっしりと重い。

「え、いいんスカ?ありがとうございます」

目を輝かせて、頭を下げる安達に揃って頭を下げる。管理人さんは喫茶店の中に戻っていった。


「うわっ、豪華ー。本当、ここの人たちみんないい人だよなー」

お重二段のお弁当は小学生の時の運動会かってくらいに豪華だった。

貰った缶ビールと一緒に唐揚げを撮む。悔しいけど、美味い。

「…斉藤ってさ、管理人さん絡むと機嫌悪くなるよな」

「…そんなことねーよ」

…この態度がその答えを肯定しているのを知っている。

俺には無い、人にたいするる気遣いと優しさ。きっとああいう人が癒やし系なんだろう。安達が惹かれるのもわかる。

「なあ、今日の俺はどうだった?」

野球をする安達を初めて見た。正確には違うんだけど、意識してちゃんと見たのは初めてだった。草野球だけど、一生懸命で楽しそうで、…少し羨ましかった。

「草野球、一緒にやんねーか」

「…俺がやると草野球になんねーよ」

絶対、誰にも打たせない自信がある。

「それもそうか。いつか一緒に野球できたら良いな」

それに答えるかわりに、安達にキスを求める。

いつも不安に思う。

この温かいぬくもりが俺の前から消えてしまうことを。

離したくない、けれど安達の本音はどうなんだろう。どうして俺と一緒にいてくれるんだろう。

一人で考えても答えは出なかった。

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