第22話 SS チェリーパイ
「うーん、確かに酸味が強いですね」
「砂糖足す?」
「そうだなぁ、…コンポートにしちゃいましょうか」
6月初め、メゾン・ド・ソレイユの庭先に栄えている桜の木が赤い小さな実を付けた。それを4人で収穫して、亮と朋樹が喫茶店で何かを作ろうとしている。そのうちに喫茶店の中は甘い匂いが漂い始める。
「佐藤錦だと甘みが強すぎてお菓子にはあんまり向かないし、アメリカンチェリーは色合いが強すぎる。チェリーパイは甘みと酸味のバランスが大事なんだと思うんですよね」
亮が料理人らしいこだわりを見せる。亮は仕事が好きらしく、素材に合わせて調理法を変えたりもする。そういう所は、俺には無い物だから素直に尊敬する。
「いやー、良い眺めですねー。エプロン姿も可愛いなぁ」
口許を緩めて俺の淹れたコーヒーを啜る木津を見やる。木津は眼鏡を掛けたほうが良いと思う。あんな人使いが荒くて頑固な朋樹のどこが可愛いのかさっぱりわからない。世の中には変わった人間もいるもんだ。
「それより、さくらんぼなんかの為に有給なんか取って良かったのか?」
信じられない事に、木津はこのために、平日を休みにしている俺達に合わせて有給休暇を取っていた。
「今は、そんなに忙しくないし有給も使わなきゃもったいないじゃないですか。…あ、そろそろ出来たかな」
辺りにチェリーパイの焼けた匂いが漂い出す。バダーの良い匂いに少し腹がなった。
木津は立ち上がり、朋樹の側へと向かう。交代にこちらへとやってきた亮に先程浮かんだ疑問を口にした。
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