第21話 SS 木津と朋樹
冬が過ぎて春が来た。
僕の部屋から見える桜の木の枝も随分と伸びた。葉桜になり、少しずつ実が膨らみ、ぽつぽつと赤くなりだした。
収穫が終わったら枝の暫定をしないといけないなあ、なんてベッドの布団の中で頬杖を付きながらぼんやりと考えていると、もぞもぞと木津さんが起き出した。
「さくらんぼ、って桜の木からなるんですねー」
「そうなんだ。でも、ソメイヨシノとかは鑑賞用だから、さくらんぼはならないみたいだよ」
「桜の木からさくらんぼがなるなんて知らなかったから、子供の頃、なんでさくらんぼって言う名前なんだろうって思ってた」
同じベッドから、僕の曽祖父が生まれた時に植えられたという、樹齢100年にはなるだろうか、鑑賞用では無いさくらんぼがなる桜の木を二人で眺める。
木津さんはどちらかと言うと都会っ子なんだろうな。
「あと2週間程したら食べ頃になるから
、太一と収穫したら……」
一緒に食べよう、と言う前に鼻を抓まれた。
「ほら、また太一さん。ちょっとは俺も頼って欲しいんだけどな」
今までずっと何かあったら太一に頼って来たから、少しくすぐったい。拗ねたように小さく唇を尖らせる年下の恋人が可愛らしい。
「…俺、嫉妬心強いほうじゃないのにな、朋樹さんには独占欲強くてごめんね」
…僕だって、感違いで独占欲丸出しで、人前で歳柄もなく大泣きした人間だよ、似た者同士だよね。
ごめんねの代わりに軽く唇を重ねた。
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