第16話

「凄く美味しい」

店主に代わって作ったばかりのオムライスを嬉しそうに頬張る朋樹さんに緩く笑みを向ける。直接褒められるのは素直に嬉しい。

俺にも一口と、朋樹さんからスプーンを取り上げ齧りつく店主、もとい太一さんの様子を少し緊張して見つめる。

瞳を閉じ少し顔を上げて味わうように飲み込むのが喉の動きでわかった。 

「後でレシピ教えてくれ。あと時間あるなら何種類かつまみ作ってくれ」

「俺のメリットは?」

「コーヒーいつでも好きなだけ飲ましてやるよ」

それは俺にとってはとても魅力的な取引だった。

店にある調味料と冷蔵庫の中を確認する。

うーん、ハーブチキンのサラダと蛸のアヒージョ、豆腐とアンチョビのグラタンざっと見て作れるものを頭の中で思い浮かべる。

作り置きも出来るし、満足感もおしゃれ感もあってワインにも合う。早速、鶏胸肉を取り出し下ごしらえを始める。

「なんか料理やってたの?」

カウンターの客席越しに朋樹さんが聞く。

「俺、ホテルのフランス料理店で修行してます」

調理師の専門学校を出て6年、まだまだ修行の身だ。

「え、じゃあ太一は、ちゃんと報酬払わなきゃ」

「要らないっす。太一さんのコーヒー美味いんで」

手際よく、塩、砂糖、ブラックペッパー、細かく刻んだミント、パセリ、ローズマリーを皮を剥いだ鶏肉にまぶしていく。白ワインを振りかけ、ラップに包んでレンジにかける。レタスやベビーリーフを千切って細かめに切った鶏肉とプチトマトをボウルのなかで混ぜ合わせ、少し酸味を効かせたオリーブオイルとレモンのドレッシングで味を締める。

「後でそいつらのレシピも教えてくれ」


仕事が終わって帰ってきた朋樹さんの恋人の木津さんと4人で俺が作った料理を食べた。

木津さんが帰りに買ってきてくれたバケットを明太子のデップとアボガドでアレンジして、大根を拍子切りにして油であげただけのつまみも出した。どれも簡単で太一さんでも出来る料理だ。

「俺は、腹が膨れりゃ何でも良いと思ってたからなぁ。料理も人を幸せにするんだな」

頭をぽんぽんと撫でられた。




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