第15話

3度目のコーヒーはブレンドを頼んだ。店主が作るブレンドに少し興味があったのと手元を見てみたいのが相まって、カウンターに腰掛けた。

暫し考えてから焙煎を始める。コーヒーの深く広がる香りに息を吸い込んだ。

「いつも注文受けてから焙煎すんの?」

素朴な疑問。

「いいやー、だいたい良く出るメニューは一日分を朝に纏めて焙煎するな。コーヒーの味なんてわかんない奴ばっかりだから、いちいちそんなことやってらんねーし」

「夜はバーやってるから、その仕込みもあるしな。ほい、お前好みになってると思うよ」

出されたコーヒーを一口啜る。酸味はあまり強くない。少し甘みがある味わいがコーヒーの奥深さを物語るようだ。

うん、美味い。まだ3度目の客で到底常連なんて呼べるような客でもない奴の好みが良くわかるな、少し関心する。


「太一、なんか食わして」

ヘロヘロになった眼鏡を掛けた男性が倒れ込むようにカウンターに突っ伏した。

「なんだ、朋樹まだ草むしりやってたのか」

「もー、毟っても毟っても全然終わらないんだー。ちょっと休憩」

「昨日、木津といちゃこらしてたから、体力がないだけじゃねーのか」

朋樹と呼ばれた男性は、真っ赤になって近くにあったティッシュの箱を店主に投げつけた。それをヒョイと躱してカウンター下の冷蔵庫を覗いている。

「オムライスで良いか?」

うっ、と返事に詰まった、多分店主の料理の腕前を知ってのだろう。ため息をついて諦めたように頷いた。

見兼ねて俺は立ち上がった。

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