第14話 三部
「まずっ…」
一口食べて味わうまでもなく呟いた。
見た目はなかなかの合格点、なのに不味くなる要素がないスクランブルエッグをなぜこうも不味く作れるのだろうか。
一人で切り盛りしている店主の顔を見上げると目が合った。
さっきの呟きが聞こえたのかも知れない。
口直しにコーヒーを飲んだ。うん、やっぱりコーヒーは凄く美味い。
この店に来るのは二度目だ。この辺りに住みだして3年程、散歩がてらぶらぶらと入った小径の先に、綺麗に手入れされた庭先が広がっていた。少し奥まった場所にウッド調の小綺麗なマンションがあり、その一階からはコーヒーの良い香りがした。
外に出た黒板の看板には、コーヒー豆の種類とそれぞれの値段が書いてある。
値段も良心的、と、店の名前は…
軒先にも店舗の名前は書いていない。黒板の看板のしたの方に…喫茶店とだけ。喫茶店、という名前なのだろうか。
店の扉を開けると、「いらっしゃい」と低い声が聞こえた。カウンターの中には無精髭を生やしたなかなかの体格の良い男が一人、二人組の男性客と新聞を読んでいる老人がいた。…平日の昼間だからこんなもんだろう、庭がよく見える席に腰掛けた。
「注文は?」
メニューを見ていると水を運んできたついでに注文を聞かれた。コーヒーの種類は多い
「カモデ」
「…今から焙煎するから少し時間がかかるぞ」
どうやら自家焙煎の店らしい。なるほど、良い香りがする訳だ。了解するとまたもや話聞かれる。
「今なら焙煎具合もあんた好みにできるけど」
「じゃあ、シティローストで」
十数分後に運ばれてきたコーヒーは、今まで飲んだ中で一番美味かった。
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