第12話

この間の教室だろうか

手当たり次第に扉を開ける。何個目かの教室で見つけた時には、斉藤は元チームメイトらしい男に組敷かれて今まさに挿入されそうになっている所だった。

カッと頭に血が登って、相手の顔を思いっきり殴りつけた。

「二度と斉藤に手を出すな」

低く唸るように睨みつけると男は慌てて逃げていく。俺は、感情を無くした抜け殻のような斉藤を強く抱きしめた。

「心配させるな、馬鹿」

冷たい身体をゆっくりと撫でてやる。頭のてっぺんから、背中、腰、腕へと自身の熱を移すように何度も何度も擦る。弱々しく俺の背中に回した腕に徐々に熱が戻ってくる。

「…怖かった」

小さく呟く斉藤は凄く儚く思えた。

そんな怖い思いを半年間も一人でずっと抱えて来たんだな。仲の良かったチームメイトから受けた肉体的被害と精神的被害は余程怖かったんだろう。あの強気な斉藤が泣いている。

俺はゆっくりとその唇に唇を重ねた。


「…ごめん」

思わずしてしまった行為に深く頭を下げる。

怖い思いをまたさせてしまった。謝っても謝りきれない。大事にしたいと思っていたのにも関わらずだ。

今は俺の部屋に膝を抱えて座り込んでいる斉藤は、やはり怒っているのか先程から全くこっちを向いてくれない。

どうしようかと思案して、緩く頭を掻いた時、ボソリと呟く斉藤の声が聞こえた。

「…美味い生姜焼き作ってくれたら、許す…」

よっしゃ!そんなんで良いのか?張り切ってスマホで生姜焼きのレシピを探す。

ふむふむ、なるほど

タレに漬ける時間が大事なんだな。チューブの生姜より、生の生姜を使いたいな、ならおろし器もいるよな。玉ねぎも一緒に焼いて付け合せはキャベツの千切りに豆腐とわかめの味噌汁に、あとなんか一品…はスーパーに行ってから決めようか。あっと、ついでに斉藤用の茶碗や箸も買ってこよう、思い立って財布を手にして立ち上がった。

「ちょっと、買い物に行ってくるわ」

「俺も行く…」

服の裾をひっぱられる。

あ、一緒に行くのか…。やっぱり一人じゃ怖いよな。


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