第10話
その後の講義はサボって二人でマンションに帰った。帰路につく間、斉藤は項垂れて一言も喋る事はなかった。
俺の部屋で汚れた服を脱がせて、洗濯機の中へと放り込む。シャワーを浴びさせ、ボディソープを泡立て丁寧に身体を洗う。少し戸惑ったが性器も何食わぬ顔で洗っていく。よくよく見ると身体中、背中も、尻も、脚も、打撲や傷の跡がある。見ていることが出来なくて思わず顔を背けた。
あんなことが日常的なのだろうか
今の斉藤を見ていると、どうしても同意の上でだとは思えない。
「俺のだけど、我慢しろよな。あ、下着はちゃんと新しいのだから。はい、脚上げて」
身体を拭き、簡単に髪をタオルで拭いてやる。その間は随分と大人しい。膝をついて肩に手を捕まらせてパンツ、スエットパンツの順で穿かせていく。スエットの上着を着せるとベッドへと座らせ、ドライヤーで髪を乾かしていく。サラサラと流れる髪は俺が知っている時と較べてかなり伸びてきている。前髪なんて耳にかかるくらいで、視界が悪いんじゃなかろうか。
高校時代から揶揄されるおかん心、もとい生来のお節介な世話焼き心が湧き上がる。
じっと前髪を手に取り。伏せる瞳の滲む色を視る。今、何を考えているのだろうか。
不意に髪に触れていた手を払いのけられ、斉藤はゴロンと俺に背を向けベッドに横たわった。疲れているのだろう、そう思って寝室の扉を締めた。
ジュージューと音が仕出したと同時に良い匂いが辺りを包む。
冷蔵庫にあったカットされ1食分づつ袋に入った野菜と豚肉を醤油で簡単に炒めた物を皿に盛る。二人分の食器はないから、俺の分は味噌汁用のお椀に炊きたてのご飯を入れて、背の低いテープルに並べる。
起こしに行こうかと立ち上がった時、斉藤は自分から起きてきた。
「飯、食うだろ?」
斉藤を座るように促して自分も座る。少し冷たく感じるのは唯一ある座布団を斉藤に譲ってやっているからだ。
味はまぁまぁ美味く出来た方だと思う。斉藤はどう感じるのだろうか。良くわからなかったが、ご飯のおかわりをしてくれたので俺は満足だった。
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