第9話
しまった。迷った。
大学は広くてなかなか難しい。第3講堂、第3講堂…。誰かに第3講堂の場所を聞こうと辺りを見渡す。
突然ガタンと大きな音がした。驚いて思わず音がした方へと視線を向けると、慌てた様子で教室から出てきた学生らしい人物はそのまま足早に走り去ってしまった。訝しく見送るもまだ教室に誰か残っているかも知れない、そう思い、そっと扉を開けた。
「…斉、藤」
机の上に座った斉藤が気怠そうにこちらへと視線を向ける。その姿は、上半身は乱れて下半身は何も履いていなかった。向けた顔の口許には少し血が滲んでいる。慌てて近寄ると鼻を付く独特の匂いがした。よく見ると下半身は精液で汚れている。慌ててなにか拭くものがないかとジーンズを弄ると今朝学校へ行く途中で貰った駅前の居酒屋チェーン店のチラシが入ったティッシュが手に当たる。それを全部使って丁寧に身体に付いた精液を拭いてやる。
相手はさっきの奴だろうか、一度殴ってやろうかと先程走り出した方向へと視線を向けた。
「…良い…、放っておけ」
「でも、可笑しいだろ。強姦に…」
近いんじゃないかと思う。身体中に殴られた跡、新しい傷もあれば古そうなのもある。見ていられなくて羽織っていたパーカーを肩にかけてやる。
「…昔のチームメイトだ…」
「俺なんかに構っているとお前も同じ目に遭うぞ」
呟く斉藤の顔の表情は良く見えない。でもその声は小さく震えていた。
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