第5話

「落ち着きましたか?」

貰ったお茶を一口喉の奥へと流し込んでコクンと頷く。暫く両手の掌の中にあるペットボトルを見つめる。

顔をあげれば視線が合うのがわかっているから、あげれない。

どうしよう、なんて言おうか

上手く誤魔化せる言い訳を探して、でもなかなか思いつかない。

会計が終わって、両手いっぱいの荷物を持って木津さんは僕を迎えに来てくれた。荷物は今は後部座席に置いてある。僕は助手席へと座らせるとそのまま駐車場の自動販売機からペットボトルのお茶を買ってきてくれた。

僕の髪に彼の指が触れる。その指が優しくて暖かくてまた涙が溢れ出した。

「…俺のこと、嫌い?」

違う、そうじゃない

小さく否定して首を横に振る。初めて合ったときから好きだったんだ。一目惚れだった。

不意に彼の匂いが強くなり上半身が温かく包まれた。僕を抱き締める木津さんの腕が強くなる。

「…俺は、長谷川さんのことが好きです。だから、…嫌だったらちゃんと嫌だって言ってください」

ゆっくりと顔を彼の方にあげると視線が合った。

嫌じゃない、嫌いじゃない

言葉が出ない代わりにゆっくりと目を閉じた。彼の左手が僕の右の頬へとそっと触れる。頬を伝う涙を親指で拭ってくれた。

重なる唇に熱がこもる。とても優しいキスだった。

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